ザ・ブレスコ(The Breath Co.)はなぜ売れたのか

ザ・ブレスコ オーラルリンスの商品パッケージ 日用品

画像出典:株式会社グラフィコ プレスリリース(PR TIMES)

1. フック:売れた事実

株式会社グラフィコが日本で展開するノンアルコールマウスウォッシュ「ザ・ブレスコ(The Breath Co.)」は、2025年10月7日に全国のドラッグストアで本格販売を開始してから短期間で存在感を増し、@cosmeのクチコミランキングでオーラルリンス/マウスウォッシュ・スプレー部門1位を獲得した。さらに「日経トレンディ」2025年12月号(2025年11月4日発売)の「2026年のヒット予測商品ベスト30」では、数ある新商品の中から第5位・日用品大賞に選出されている。オンライン先行発売時点の実績として、グラフィコは「過去半年間に洗口液を購入した経験がない新規ユーザーが44%に達した」と発表しており、洗口液という成熟カテゴリで、これまで買っていなかった層を新たに掘り起こしたことを示す数字が公表段階からすでに出ている。

2. 背景と狙い

ザ・ブレスコは、自身の娘の重度な口臭に悩んだアメリカの歯科医Dr.ハロルド・カッツが1993年に立ち上げたブランドで、現在は世界43カ国以上で展開されている。本国アメリカでは、Circana社の調査(2025年5月25日までの52週間、ブランド売上高ベース)でノンアルコールマウスウォッシュ市場のNo.1ブランドと位置づけられ、韓国最大手のドラッグストアチェーン「オリーブヤング」ではデンタルケア部門で2020年7月〜2024年6月の5年間にわたり売上1位を獲得している実績を持つ。

日本での展開元である株式会社グラフィコは、「なかったコトに!」シリーズなどのダイエットサプリメントや「オキシクリーン」の日本展開で知られる企業で、2024年に米国大手消費財メーカーのChurch & Dwight社の完全子会社となった。グラフィコにとって、世界的に実績のあるオーラルケアブランドを取り込むことは、既存のダイエット・スキンケア中心のポートフォリオにオーラルケアという新カテゴリを加える狙いがあったと考えられる。日本の洗口液市場はすでに大手ブランドが定着した成熟市場である一方、「毎日は使わない」という浸透率の低さが長年の課題とされてきた。ザ・ブレスコは、国内の実績ゼロからスタートする代わりに、海外での「全米No.1」「韓国5年連続1位」という第三者的な実績データを権威付けとして持ち込むことで、この課題に対処しようとした企画だと考えられる。

3. トレードマーケティング視点の分解

流通

メーカー視点:グラフィコはいきなり全国のドラッグストア一斉展開を選ばず、2025年5月27日にオンラインで先行発売し、7月4日に一部店舗を含む展開、10月7日に全国のドラッグストア・バラエティストアでの本格販売という段階的な流通展開を取った。オンラインでの反応や新規ユーザー率などのデータを見ながら店頭展開を拡大していく、リスクを抑えたロールアウト設計だったとみられる。

小売視点:ドラッグストアにとっては、@cosme1位や日経トレンディのヒット予測という第三者評価が確立してから店頭展開が本格化した形になり、「話題性が裏付けられた新規ブランド」として仕入れ判断のリスクを抑えられた可能性がある。

価格

メーカー視点:500mLで税込1,760円というメーカー希望小売価格が設定されている。国内の大容量マウスウォッシュ(500mL〜1L)が実売1,000円前後の価格帯であることが多いのに対し、明確に高めの価格帯である。

小売視点一般に、輸入・海外発の権威付けブランドは国内の定番品より高い価格設定と粗利率を持つことが多く、小売にとっても客単価と粗利の両方を押し上げる商材だった可能性がある(具体的な卸条件・粗利率は非公開のため、一般的な業界傾向からの仮説にとどまる)。

棚割り

新規参入ブランドが、リステリンをはじめとする定番ブランドが並ぶ既存のマウスウォッシュ棚にどう食い込んだかの詳細な陳列施策は公開情報からは確認できない。ただし、青とオレンジを基調にした英語表記主体のパッケージは、和文中心の国内定番ブランドが並ぶ棚の中で視覚的に際立ちやすいデザインであり、陳列上のインパクトを狙った設計だと考えられる。

季節性

明確な季節イベントに紐づいた発売ではなく、通年商材としての展開である。ただし、2025年10月の全国展開から約5カ月後の2026年3月2日には携帯に便利な「スティックタイプ」が新発売されており、発売後の商品ライン拡大によって年間を通じた話題創出を継続する設計になっている。

プロモーション

認知:「全米No.1」「韓国5年連続1位」という海外実績を前面に出したプレスリリース展開に加え、@cosmeクチコミランキング1位、日経トレンディ「2026年のヒット予測商品ベスト30」第5位・日用品大賞という第三者機関・メディアによるお墨付きを重ねて獲得し、それ自体を新たな認知獲得の材料にする循環を作っている。日経トレンディの記事では、ザ・ブレスコを「若者のムード消費マウスウォッシュ」としてSNSでの拡散が期待できる商品と位置づけている。

トライアル:2025年5月27日のオンライン先行発売は、店頭に並ぶ前の段階でSNSや口コミに敏感な層に先行してリーチし、初期の口コミ・レビューを蓄積する狙いがあったと考えられる。リテンション:発売時点で複数フレーバー(マイルドミント、アイシーミント)を展開し、2025年8月にはレインフォレストミントを追加、2026年3月には携帯用のスティックタイプを追加するなど、継続利用者が飽きずに使い続けられるバリエーション拡張と、外出先でも使える携帯性の強化を段階的に進めている

カニバリゼーション

グラフィコにとってオーラルケアは新規参入カテゴリであり、既存の主力ブランド(ダイエットサプリメント・スキンケア)との直接的な共食いは考えにくい。一方、より広い市場全体で見れば、ザ・ブレスコが獲得した売上のうち、どこまでが「洗口液カテゴリの純粋な新規需要」で、どこまでが国内の定番マウスウォッシュブランドからのスイッチングによるものかは、公開データからは検証できない。先行販売時点で新規ユーザー率が44%と公表されていることは、裏を返せば残り56%は既存の洗口液ユーザーであり、その中には他ブランドからの乗り換え(つまり市場内でのシェアの奪い合い)が一定含まれている可能性がある。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、ザ・ブレスコが主に効くのは客数(洗口液を過去半年買っていなかった新規ユーザーの獲得)と客単価(国内定番品より高い価格帯)の2つだと考えられる。購入頻度については、洗口液自体が本来リピート消費される消耗品であるため、複数フレーバー・複数容量(500mL/1L/スティックタイプ)の展開が定着すれば伸びる余地はあるが、発売から日が浅く現時点では客数獲得の効果がもっとも顕著であり、購入頻度への効果は今後の検証が必要な副次的な位置づけにとどまる。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、ザ・ブレスコが主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客数 主要ドライバー (洗口液未経験・未購入層の新規獲得) 客単価 主要ドライバー (国内定番品より高い価格設定) 購入頻度 副次的効果にとどまる (発売から日が浅く継続購買データが未蓄積)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

鮮やかな水色のボトルにオレンジのキャップ、英語表記主体のロゴという、国内ブランドとは明確に異なる「洋物感」を前面に出したデザイン。開発者であるDr.ハロルド・カッツのサイン入りロゴも配置され、専門家開発という権威性を視覚的に伝えている。

購買トリガー

「全米No.1」「韓国5年連続1位」という具体的な実績数字そのものが、購買を後押しする最大のトリガーになっていると考えられる。洗口液のような効果を店頭で体感できない商品カテゴリでは、実績・受賞歴という第三者評価が「効きそう」という期待値を代替する役割を果たす

体験設計

ノンアルコール・グルテンフリー・低刺激という処方は、従来のアルコール入り洗口液特有の「しみる」「刺激が強い」というマイナス体験を持つ未経験層に対して、「洗口液は苦手だったが、これなら試せる」という心理的ハードルの低下を狙った設計になっている。日経トレンディが「ムード消費」と表現した通り、実利的な口臭ケアだけでなく、パッケージの見た目やSNS映えも含めた体験として消費されている面もうかがえる。

図:海外実績が購買行動につながるまでの流れ(当サイト作成)
海外での実績 (全米No.1等) SNS・メディアで 実績を認知 オンライン先行 発売で購入 低刺激処方を 実感 フレーバー拡充で リピート購入 認知 トライアル リテンション

ターゲットとなった性年代層

実際の購入者データ(性年代別)は非公開のため、以下は公開情報からの推測である。グラフィコのプレスリリースでは「特に20〜30代の女性を中心に支持を獲得している」と明言されており、これがコア層と見てよいだろう。日経トレンディが「若者のムード消費」「SNS売れ」という文脈で紹介していることや、@cosmeという主に女性ユーザーが中心の美容口コミサイトでランキング1位を獲得している点も、この年代・性別のコア層像と整合する。一方、日経トレンディという幅広いビジネス・生活者層が読む媒体の「ヒット予測」に選出されたことで、「話題の商品として知っている」という認知層は年代・性別を問わず広がった可能性がある。

カテゴリ視点の指標分解

カテゴリ(洗口液・マウスウォッシュ)の売上は、カテゴリ購入率(浸透率)×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。先行販売時点で新規ユーザー率44%という数字が公表されていることから、ザ・ブレスコがもっとも直接的に効いているのはカテゴリ購入率(洗口液を過去半年間買っていなかった層を新たにカテゴリに取り込む)だと言える。加えて、国内定番品より高い価格設定であることから平均単価の押し上げにも寄与していると考えられる。一方、購入頻度・1購入あたり購入数量への影響は、発売からまだ日が浅く継続購買データが蓄積されていないため、現時点では判断材料が乏しい。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=ザ・ブレスコで特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(洗口液)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量

5. 実際の結果

先行販売時点で新規ユーザー率44%という具体的な数字が公表されていることに加え、@cosmeクチコミランキング1位、日経トレンディ「2026年のヒット予測商品ベスト30」第5位・日用品大賞と、複数の第三者評価を短期間で獲得している。さらに、2025年8月にフレーバーを追加、2026年3月には携帯用スティックタイプを新発売するなど発売からわずか1年に満たない期間で商品ラインを拡張し続けている事実は、初動の販売が好調だったことを裏付けていると見られる。ただし、具体的な販売数量・売上金額そのものは公表されておらず、また新規ユーザー44%という数字はオンライン先行発売時点のものであり、全国のドラッグストアで本格販売が始まった後の継続的なユーザー構成比が同水準を維持しているかどうかは公開情報からは確認できない。

6. 購買導線

ザ・ブレスコは全国のドラッグストア・バラエティストアに加え、楽天市場でも購入できる。以下はメール便送料無料の使い切りサイズ(10ml×3本)3個セットである。

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「海外での実績・権威付けを武器に、国内の未経験層・スイッチング層を新規開拓する」という手法は、ザ・ブレスコに限った戦略ではない。同じオーラルケアカテゴリでは、ヤーマン株式会社が展開する口腔洗浄器ブランド「Waterpik(ウォーターピック)」が、「世界シェアNo.1」「歯科医の89%が推奨」という実績を前面に打ち出して日本市場に参入し、歯ブラシだけでは満足していなかった層の新規開拓を進めている。またスキンケア領域では、皮膚科学に特化した製薬会社が開発した敏感肌ブランド「セタフィル(Cetaphil)」が、70カ国以上での展開実績と豊富な臨床試験データを権威付けとして日本に本格上陸している。業種・カテゴリは異なっても、「体感しにくい効果を、海外の実績データという客観的な数字で補強する」という構造は共通している

商品・ブランド仕掛け共通するインサイト
Waterpik(ウォーターピック、ヤーマン取扱)「世界シェアNo.1」「歯科医89%推奨」を掲げて口腔洗浄器市場に参入効果を店頭で体感できないカテゴリで、海外実績が「効きそう」の代替になる
セタフィル(Cetaphil)70カ国以上での展開実績・臨床試験データを武器に敏感肌ブランドとして本格上陸海外の権威付けで、国内未経験層のスイッチングコストを下げる

8. 法則の一般化

国内での実績がゼロの新規ブランドでも、「海外でどれだけ売れているか」という客観的な数字を前面に出せば、体感しにくい効果を訴求しづらいカテゴリでも購買の後押しになる。特に、既存カテゴリの非利用者・未経験層は「試したことがないから分からない」という不安を抱えているため、海外実績という第三者的な裏付けがその不安を解消し、新規開拓の突破口になりやすい。


出典:株式会社グラフィコ プレスリリース(PR TIMES)/日経トレンディ「2026年のヒット予測商品ベスト30」関連報道/@cosme/グラフィコ公式サイト・楽天市場店 等をもとに作成

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