KINCHO「蚊がいなくなるスプレー」はなぜ売れたのか

KINCHO 蚊がいなくなるスプレー 日用品

画像出典:大日本除虫菊株式会社 公式サイト

1. フック:売れた事実

大日本除虫菊(KINCHO)の「蚊がいなくなるスプレー」は、ワンプッシュ式の蚊取り用品として長年市場に定着し、ヨドバシカメラ・ツルハドラッグ・LOHACO・モノタロウなど主要な通販・小売チャネルで継続して販売されている。12時間持続タイプ・24時間持続タイプ、200回分・255回分といった複数のバリエーションを展開し、香りなし・ローズの香りなど選択肢も揃えている。KINCHOはCMにダイアンを起用するなど、発売から時間が経った現在も継続的にプロモーションを行っている。

2. 背景と狙い

蚊がいなくなるスプレーは、「蚊は、飛んでいる時間よりも、壁や天井にとまっている時間がはるかに長い」という蚊の習性に着目して開発された。従来の蚊取り線香や電気式蚊取りは「今、目の前を飛んでいる蚊」あるいは「部屋にいる蚊」を後追いで駆除する発想だったのに対し、このスプレーはあらかじめ壁や天井に薬剤を付着させ、蚊がそこに止まった瞬間に効果を発揮する「待ち伏せ型」の発想に転換している。

電気も、電池も、火も使わないという特徴は、コンセントの位置を気にせず使える手軽さにつながっており、KINCHOが電気式蚊取り器「シンカトリ」でも訴求している「電源不要」という切り口と共通する開発思想が見える。

3. トレードマーケティング視点の分解

流通

メーカー視点:ドラッグストア・ホームセンター・家電量販店・通販(ヨドバシ、モノタロウ、LOHACO等)と、幅広いチャネルに展開している。

小売視点:季節性の強い殺虫剤カテゴリーの定番商品として、小売にとっては夏場の売場構成に組み込みやすい安定商材だったと考えられる。

価格

メーカー視点:12時間用・24時間用、200回分・255回分といった複数の容量・持続時間バリエーションを展開し、使用頻度や部屋数に応じた価格帯を用意している。

小売視点:容量違いのラインナップは、小売にとって低価格帯の入門商品から大容量のヘビーユーザー向け商品まで、同じ売場で価格帯の異なる客層を取り込めるメリットがあったと考えられる(実際の粗利率は非公開であり、一般的な容量バリエーション設計からの仮説にとどまる)。

棚割り

メーカー視点:無香料・ローズの香りなど香りバリエーションを展開し、殺虫剤特有の薬品臭を嫌う層にも配慮した棚展開を可能にしている。

小売視点:蚊取り線香・電気式蚊取りとは異なる「スプレー」という形状のため、既存の蚊取り用品棚に新しいサブカテゴリーとして加えやすかったと考えられる。

季節性

メーカー視点:蚊の活動が本格化する初夏から秋にかけてが主要な需要期であり、この期間に向けてCM投下・店頭展開を強化していると考えられる。

小売視点:夏場の殺虫剤カテゴリー全体の需要期に合わせて、小売にとっては季節商材として毎年決まったタイミングで棚を作り直せる、計画の立てやすい商品だったと考えられる。

プロモーション

認知:ダイアン出演のCMを通じて、「蚊がいなくなる」という直感的な商品名・効果を広く周知している。

トライアル:ワンプッシュで手軽に使える操作性の分かりやすさが、蚊取り線香や電気式蚊取りに不満を持つ層の試し買いを後押ししていると考えられる。

リテンション:200回分・255回分という大容量タイプの存在が、シーズン中の継続使用・翌年以降のリピート購入を前提とした設計になっている。

図:CMから翌年のリピート購入までの流れ(認知・トライアル・リテンションの3段階)(当サイト作成)
認知 トライアル リテンション CMで待ち伏せ型の 発想を認知 ワンプッシュの 手軽さで購入・使用 大容量タイプで シーズン継続・翌年も

カニバリゼーション

KINCHOは同社の主力商品である蚊取り線香・電気式蚊取り器(金鳥の渦巻・シンカトリ等)も多数展開しており、蚊がいなくなるスプレーは、これら従来型の蚊取り用品の一部需要を奪っている(純増ではなくシフトさせている)可能性がある。特に「電気も火も使わない手軽さ」という訴求は、電気式蚊取り器の設置が面倒だと感じていた既存ユーザーの乗り換えを誘発しやすい。ただし、これを裏付ける販売データは公開されておらず、あくまで推測の域を出ない。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

「待ち伏せ型」という新しい発想の商品であることから、客数(従来の蚊取り線香・電気式蚊取りに不満を持っていた層の新規獲得)が主なドライバーと考えられる。容量バリエーションの存在は客単価(大容量タイプの選択)にも一定程度寄与する。季節性の強い消耗品であるため、購入頻度(シーズン中の使い切り・翌年の買い替え)も継続的なドライバーになっている。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、蚊がいなくなるスプレーが主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客数 主要ドライバー (従来の蚊取り用品に不満だった層の新規獲得) 客単価 一定程度寄与 (大容量タイプの選択) 購入頻度 継続的ドライバー (シーズン中の使い切り・翌年の買い替え)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

「蚊がいなくなるスプレー」という商品名自体が効果を直接的に表現しており、パッケージを見ただけで何をする商品かが一目で伝わる設計になっている。

購買トリガー

「蚊は飛んでいる時間より止まっている時間の方が長い」という、多くの消費者が意識していなかった蚊の習性を可視化する訴求が、従来の蚊取り用品との違いを直感的に理解させる購買トリガーになっていると考えられる。

体験設計

ワンプッシュするだけで12時間〜24時間効果が持続するという操作の簡便さと、実際に蚊に刺されなくなったという実感が、リピート購入につながる体験設計になっている。電気式蚊取り器のようにコンセントの位置を気にする必要がない点も、寝室・玄関・脱衣所など場所を選ばず使える利便性を高めている。

ターゲットとなった性年代層

実購入者データ(性年代別)は非公開のため断定はできないが、電気を使わず火も使わない安全性の高さから、コア層(火付け役)は小さな子どもやペットがいる家庭、火気を使う蚊取り線香に抵抗のあった層だったと考えられる。CMでのダイアン起用や幅広いチャネルでの展開から、拡大層としては一人暮らしから大家族まで幅広い世帯に浸透したとみられる。

カテゴリ視点の指標分解

蚊取り用品という既存カテゴリーの中で、待ち伏せ型スプレーという新しいサブカテゴリーを確立した商品であるため、「カテゴリ購入率」(このタイプのスプレーをそもそも試したことがあるか)を押し上げる効果が主だと考えられる。容量バリエーションの存在は1購入あたり購入数量(大容量タイプの選択)の押し上げにも寄与していると考えられる。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=本商品で特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(蚊取り用品)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量
色付きヘッダー=指標名/ドット3つ=押し上げ効果の強さの目安(赤=強い、青緑=相対的に弱い)

5. 実際の結果

主要な通販・小売チャネルで継続して販売され、複数の容量・香りバリエーションが展開され続けていることから、単発のヒットで終わらず定番商品として定着していると見られる。KINCHOは電気式蚊取り器「シンカトリ」でも大きな成果(発売から250万個出荷)を上げており、蚊対策商品全体でのブランド力を持続的に強化していると考えられる。もっとも、蚊がいなくなるスプレー単体の売上金額・販売数は公表されておらず、規模感は店頭・通販の取り扱い状況からの推測にとどまる。

6. 購買導線

ドラッグストア・家電量販店の店頭に加え、通販でも幅広く取り扱われている。

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「対象物の習性・行動パターンに着目し、後追いではなく先回りで対処する」という発想は、他の防除・清掃用品カテゴリーでも見られる。例えば、汚れが付着する前に予防的にコーティングする防汚スプレーなども、問題が起きてから対処するのではなく、起きる前に手を打つという同じ発想の商品設計といえる。

8. 法則の一般化

「対象の習性を深く理解し、後追いではなく先回りで対処する設計に転換すると、既存カテゴリーの中に新しい市場を作れる」——蚊がいなくなるスプレーの成功は、蚊を退治する薬剤自体を強化したのではなく、蚊の行動パターンに着目して駆除のタイミングそのものを変えた点にある。


出典:KINCHO(大日本除虫菊株式会社)公式サイト、日経クロストレンド

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