画像出典:株式会社医食同源ドットコム プレスリリース(PR TIMES)
1. フック:売れた事実
中国四川省発祥の「麻辣湯(マーラータン)」は、2024年中盤からSNSを起点に日本で急速に広がった食トレンドだ。象徴的な事例が、健康食品メーカー・医食同源ドットコムのカップ春雨麺「中華房 麻辣燙」で、2024年9月の発売から16カ月で累計出荷数1,000万個を突破(2026年1月時点)、2026年3月10日時点では1,300万個を超えるヒットとなった。この人気を受けて同社は2026年2月26日、東京・吉祥寺に実店舗「ISDG 麻辣燙 吉祥寺店」をオープン。通常は「実店舗の人気商品をカップ麺化する」流れが多い中、「カップ麺の人気を実店舗化する」という逆のルートを辿った点が異例だ。カテゴリ全体で見ても、麻辣湯専門店の新規開業数は2022年から2025年にかけて約8.5倍に増加しており、中華ジャンル全体の新規開業が同期間で31%減少する逆風の中での突出した成長となっている。
2. 背景と狙い
日本におけるマーラータンの認知は、2018年に池袋へ中国の麻辣湯チェーン「楊国福麻辣湯」が進出した頃から始まっていたが、当時は「マー活」という言葉が一部で使われる程度の小規模な広がりにとどまっていた。転機になったのは2024年中盤で、韓国で2019年頃から先行していたトレンドが、TikTokやInstagramのインフルエンサーによる「七宝麻辣湯」などの紹介を通じて本格的なブームとして日本に波及したと見られる。医食同源ドットコムはもともと「医食同源で健康的な日常を」を掲げる健康食品メーカーであり、SNSで話題化しつつあったマーラータンに、グルテンフリーのさつま芋麺という自社の強みと、麺・具材・辛さを自由に選べるカスタマイズ性を掛け合わせて2024年9月に商品化した。専門店ブームの「入口商品」としてのポジションを、いち早く小売・EC向けの商品として押さえにいった狙いがあったと考えられる。
3. トレードマーケティング視点の分解
流通
メーカー視点:医食同源ドットコムは当初、自社ECサイトや楽天市場・Amazonといったオンラインチャネルを中心に販売し、2026年2月からは自社直営の実店舗展開(吉祥寺を皮切りに大塚・下北沢など、年内数十店舗を目標)へと広げている。
小売視点:コンビニ大手3社もそれぞれ独自のマーラータン商品を投入している。セブン-イレブンは「つるもち太麺春雨 麻辣湯」(429円)と専門店監修の「セブンプレミアム 七宝麻辣湯監修 麻辣湯」(約592円)、ファミリーマートは「春雨ヌードル 麻辣湯」(200円台)、ローソンは2025年10月発売の「食物繊維が摂れる 麻辣湯〜春雨入り〜」(400円台、チルド)を展開しており、話題の海外トレンドフードを自社の売場にいち早く取り込むことで来店動機を作る動きが3社横並びで起きている。
価格
メーカー視点:ISDGのカップ春雨麺は88g・236円(税込)。セブンプレミアムの専門店監修版は約592円と高価格帯、ファミリーマートは200円台と手頃な価格帯に位置しており、同じマーラータンというテーマでも価格帯は大きく分かれている。
小売視点:専門店監修をうたう高価格帯商品は、通常のPBカップ麺よりも粗利率が高く設定されている可能性がある一方(社内の原価構成は非公開のため仮説にとどまる)、200円台の商品はカテゴリへの新規流入を促す集客の役割を担っていると考えられる。同じトレンドテーマの中で価格帯を分けることで、小売各社は客単価重視の商品と客数重視の商品を使い分けている可能性がある。
棚割り
セブン・ファミマ・ローソンの大手3社がほぼ同時期にマーラータン商品を投入していることから、コンビニの中華麺・カップ麺コーナーに「マーラータン」という独立した棚割りスペースが生まれつつあると考えられる。専門店ブームがメディアで報じられるほど、コンビニ側の棚割りの優先度も上がりやすいという好循環が働いていると見られる。
季節性
花椒のしびれと唐辛子の辛さが特徴のため、発汗を促す夏場との親和性が語られることもあるが、実際には2024年後半から通年でヒットが継続しており、季節限定色は薄い。ISDGのカップ麺も通年商品として展開されており、季節性よりもトレンドの持続性がカギになっている(要検証)。
プロモーション
認知・トライアル・リテンションの3段階で見ると、認知はTikTok・Instagramのインフルエンサーによる専門店紹介や、SNS上での「マー活」的な投稿の広がりが主導している。トライアルについては、コンビニ各社が200〜400円台という手に取りやすい価格でカップ麺・チルド商品を投入したことで、専門店に足を運ばなくても味を試せる導線が整った点が大きい。リテンションは、ISDGが麺の種類・具材・辛さレベル(0.5〜5+)を自由に組み合わせられるカスタマイズ性でリピートを促す設計になっているほか、実店舗展開そのものが継続的な来店動機の創出策になっていると考えられる。
カニバリゼーション
マーラータンの人気は、担担麺・トマト鍋風ラーメン・辛味噌ラーメンなど、既存の「辛い系」カップ麺・即席麺カテゴリの売上を一部代替している可能性がある。とりわけコンビニ各社にとっては、自社の他の中華麺・エスニック麺(担担麺やフォーなど)の購入が、マーラータンに置き換わっているかどうかは公開データからは検証できない。ISDG社内で見ても、定番の「中華房 麻辣燙」が今後増える予定の新フレーバーの売上を食う可能性はゼロではない。
小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度
売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、この商品群が主に狙っているのは客数(トレンドに興味を持った新規層の来店・購入)だと考えられる。専門店監修の高価格帯商品(セブンプレミアム約592円など)は客単価の押し上げにも寄与するが、全体としては「一度は試してみたい」という新規層の取り込みが主軸であり、購入頻度(リピート定着)はブームが一過性で終わるか定着するかに左右される不確実な指標にとどまる。
4. ショッパーマーケティング視点の分解
パッケージ
ISDGの「中華房 麻辣燙」は、金色のリボンと筆文字ロゴで「絶対虜!?ガチ中華」というコピーを添え、専門店然とした本格感を演出している。コンビニ各社も「専門店監修」「本格」といった表記を前面に出し、SNSで見聞きした「あの味」を想起させるパッケージ設計が共通している。
購買トリガー
購買のきっかけは、「SNSで見た・話題になっている専門店の味を、手軽に試したい」というトレンド追随欲求である。専門店に並んで食べる時間もコストもかけずに、コンビニやECで気軽に「今っぽい」体験ができる点が後押しになっている。
体験設計
ISDGのカップ春雨麺は、麺の種類(さつま芋麺・さつま芋平麺・牛すじ平麺・小麦細麺・小麦平麺)、具材(ダイエット・美味・美容・おでんの4カテゴリ)、辛さレベル(0.5〜5+)を自由に組み合わせられるカスタマイズ設計になっており、「自分だけの一杯」を作る過程そのものが体験価値になっている。この作り込みの自由度がSNS投稿を誘発し、次の話題の発信源になる循環を生んでいる。
ターゲットとなった性年代層
実際の購入者データ(性年代別)は非公開であるため、以下はSNSでの拡散パターンからの推測である。火付け役となったコア層はTikTok・Instagramのインフルエンサーとそのフォロワー層である10代後半〜20代のZ世代だと考えられる。メディアでは「タピオカバブルの再来」とも評されており、かつてのタピオカブームと同様に若年層が火付け役となった構図がうかがえる。一方、専門店の新規開業ラッシュや大手コンビニ3社の商品化が進んだことで、話題を「知っている」認知層は辛い物好き層を中心に幅広い年代へ拡大しているとみられる。
カテゴリ視点の指標分解
カテゴリ(カップ麺・即席麺)の売上は、カテゴリ購入率×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。マーラータン関連商品の場合、最も直接的に効くのはカテゴリ購入率(トレンドに興味を持った新規層のカテゴリへの流入)だと考えられる。専門店監修の高価格帯商品は平均単価も押し上げるが、購入頻度・購入数量への影響は、ブームが定着するかどうかに左右される不確実な部分であり、現時点では限定的と見るのが妥当だろう。
5. 実際の結果
ISDGの「中華房 麻辣燙」は発売16カ月で累計1,000万個、2026年3月時点で1,300万個を突破し、SNS発のヒットが一過性で終わらず実店舗展開という次のフェーズに進んだことが、成果を裏付けている。マーケティング部の大山美香氏は、吉祥寺店について「全く知らない麻辣燙店ではなく、『あの麻辣燙が店舗になった』と感じてもらえるように意識した」と述べており、カップ麺で築いた認知を実店舗の集客に転用する戦略が明確だ。一方、麻辣湯専門店の新規開業数が2022年から2025年で8.5倍に急増しているという市場全体のデータは、競争の激化も同時に示しており、個々の商品・店舗が中長期的に生き残れるかは今後の検証が必要と見られる。
6. 購買導線
医食同源ドットコムの「中華房 麻辣燙」カップ春雨麺は、楽天市場・Amazonなどのオンラインチャネルで購入可能である。
7. 類似のインサイトから生まれた他商品
「SNSで拡散した海外発の食トレンドが、コンビニ・量販店で手軽に試せる商品として定着する」という構図は、マーラータンに限った話ではない。台湾発のタピオカミルクティーは、2018〜2019年の「タピオカイヤー」と呼ばれるほどのSNS拡散を経て専門店ブームを起こし、現在ではコンビニやカフェチェーンの定番ドリンクとして定着している。また韓国発のキンパ(韓国風海苔巻き)は、韓流ブームやSNS上の「キンパチャレンジ」動画の拡散をきっかけに人気が広がり、ローソンや無印良品での商品化を経て日本の売場に定着しつつある。カテゴリも発祥国も異なるが、「SNSの拡散力で専門店ブームが生まれ、それをコンビニ・量販店が手軽な価格帯で商品化することでブームが定着に転化する」という流れは共通している。
| 商品 | 仕掛け | 共通するインサイト |
|---|---|---|
| タピオカミルクティー(台湾発) | SNS拡散による専門店ブーム→コンビニ・カフェチェーンでの定番ドリンク化 | 海外発のSNSトレンドは、専門店ブームの後に量産可能な定番商品へ転化しうる |
| キンパ(韓国発) | 韓流ブーム・SNS動画拡散→ローソン・無印良品での商品化 | 動画映え・体験の拡散力が、専門店から小売の定番棚への橋渡しになる |
8. 法則の一般化
海外発のSNSトレンドフードは、専門店だけのものにせず、コンビニ・量販店が「専門店に行かなくても試せる価格帯」で早期に商品化することで、一過性のバズを継続的な購買機会に転換できる可能性がある。ブームの火付け役(Z世代・SNS発信層)と、それを買い支える拡大層は必ずしも同じではないという前提に立った商品設計が鍵になる。
出典:株式会社医食同源ドットコム プレスリリース(PR TIMES)/東洋経済オンライン/ITmedia ビジネスオンライン/Advertimes/日本経済新聞/マイナビニュース 等の報道をもとに作成


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