花王 MEMEME(ミーミーミー)はなぜ売れたのか

花王 MEMEME(ミーミーミー)のブランドビジュアル 日用品

画像出典:花王株式会社 プレスリリース(PR TIMES)

1. フック:売れた事実

花王のヘアケア事業における「ハイプレミアム構成比」は、2023年頃はわずか1%だったが、2025年第2四半期時点で20%を超える水準まで急拡大している。この急成長の起点になったのが、2024年4月に発売した第1弾ブランド「melt(メルト)」で、発売から1カ月余りの2024年5月末時点で出荷実績が計画比9倍という異例のスタートを切った。この成功を土台に、2024年秋には第2弾「THE ANSWER(ジ・アンサー)」、そして2025年8月9日には第3弾となる「MEMEME(ミーミーミー)」が投入され、花王はわずか1年半足らずで3つのハイプレミアムヘアケアブランドを立て続けに市場投入したことになる。ハイプレミアム市場(税抜1,400円以上のシャンプー・コンディショナー)における花王のメーカー別シェアは、2023年の32位から直近では4位まで急上昇したと報じられている。

2. 背景と狙い

花王は長年、Essential(プレイフル)・merit(ナチュラル)・Segreta(クラッシー)といった中価格帯〜上位価格帯のヘアケアブランドで市場を支えてきたが、1,400円を超えるハイプレミアム帯ではシェアを十分に取り切れていなかった。市場全体では「機能で選ぶ」よりも「パッケージがかわいい」「香りが好き」「世界観が好き」という感情・気分で銘柄を選ぶ購買行動が広がっており、花王はこの変化を捉えて、機能訴求中心の従来型ブランド開発から、人間の本質的な感情ニーズ6区分(プレイフル・ナチュラル・コンフォート・バランス・クラッシー・インテンス)にブランドを1つずつ対応させる「感性ポートフォリオ」戦略へと大きく舵を切った。

meltが「コンフォート(休息美容)」、THE ANSWERが「バランス(こだわり・調和)」を担い、この2ブランドの成功でポートフォリオの土台ができた後、最後に残った「インテンス(躍動的・エネルギッシュ)」の枠を埋める形で投入されたのがMEMEMEである。ターゲットは推し活や自己表現に積極的なデジタルネイティブの若年層女性で、花王は2027年度までにヘアケア市場でトップシェアを獲得するという目標(国内シェア目標を16%から18%へ上方修正)を掲げており、MEMEMEはその最後のピースとして、既存の2ブランドがまだ十分に取り込めていなかったZ世代・若年層をハイプレミアム市場に呼び込む狙いがあったと考えられる。

3. トレードマーケティング視点の分解

流通

メーカー視点:先行するmeltは約15,000店舗、THE ANSWERは約8,000店舗に配荷され、MEMEMEはドラッグストア約1万店舗での取り扱いが計画された。3ブランドを段階的に投入することで、各ブランドの発売のたびに店頭での話題化・棚の入れ替えという「露出の波」を複数回作り出せるという利点がある。

小売視点:ドラッグストア側にとっては、1,760円前後という高単価帯の新ブランドが立て続けに投入されることで、ヘアケア売場全体の平均単価を押し上げる棚づくりがしやすくなる。ウエルシアなど一部チェーンでは専用什器やポップの設置、会員データを使ったリテールメディア施策も展開されており、花王と小売が共同でハイプレミアム売場を作り込んでいる様子がうかがえる。

価格

メーカー視点:meltとTHE ANSWERの中心価格帯は税込1,760円前後で、市場が定義する「ハイプレミアム帯」(1,400円以上)の中でも高めの水準に設定されている。MEMEMEも同水準の価格帯とみられ、従来の1,000円前後の主力ブランドから明確に価格帯を切り離している。

小売視点:一般に高価格帯シャンプーは、原材料費の比率が下がる分だけ下位価格帯品よりも粗利率が高い設計になっていることが多く、ドラッグストアにとってもヘアケアカテゴリー全体の粗利改善に寄与する商品群だった可能性がある(実際の卸条件・粗利率は非公開のため、あくまで一般的な価格帯と原価構造の関係からの仮説である)。

棚割り

ドラッグストアのヘアケア売場は、従来は主力ブランドが大半の棚を占め、プレミアム帯は棚の端に申し訳程度に置かれることが多かった。花王が3ブランドを立て続けに投入したことで、ドラッグストア側もハイプレミアム帯という「新しい棚割りの区画」を売場内に確保する動きを取りやすくなった。1ブランドだけでは棚を大きく割く根拠になりにくいが、3ブランドが束になって「ハイプレミアムヘアケアというカテゴリーが育っている」という説得力を持つことで、小売側の棚割り判断を後押しした側面があると考えられる。

季節性

ヘアケア用品は年間を通じて安定した需要があるカテゴリーで、強い季節性は薄い。あえて言えば、meltが4月(新生活シーズン)、THE ANSWERが秋(イメージチェンジ需要期)、MEMEMEが8月(夏の紫外線・毛先ダメージが気になる時期)と、それぞれ生活者の気分が変わりやすいタイミングを選んで発売されている点は、季節イベントというより「新しい自分を試したくなる心理的な節目」を意識した投入タイミングと見ることができる。

プロモーション

MEMEMEのプロモーションは、認知・トライアル・リテンションの3段階に比較的明確に整理できる。認知の面では、韓国の人気ガールズグループMEOVVをアンバサダーに起用し、新曲「ME ME ME」やメンバー出演のWeb CMを展開、Z世代への到達力の高いタレント起用でブランドの存在を一気に広めたトライアルの面では、2025年7月30日〜8月3日に東京・表参道で「MEMEME STUDIO」というポップアップストアを開設し、香りや使用感を実際に試せるコーナーとフォトブースを設置、音楽フェスや東京ガールズコレクションといった若年層が集まるリアルイベントへの露出も行った。リテンションについては、2026年3月28日に「スムースブーストシリーズ」(シャンプー・トリートメントなど5品)を追加投入しており、単発の新ブランド発売で終わらせず、継続的にラインアップを拡充することでブランドへの関与を維持させる設計になっていると考えられる。

カニバリゼーション

花王自身が、複数の媒体で「各感情ニーズの違いを明確にすることで、ブランド間のカニバリゼーションを最小化し、ヘアケア事業全体の成長に貢献できるポジショニングを実現する」という趣旨を説明しており、この記事で扱う他の商品とは異なり、カニバリゼーションが「結果として起きてしまうリスク」ではなく「あらかじめ織り込んで設計されたもの」である点が特徴的だ。melt=休息(コンフォート)、THE ANSWER=調和(バランス)、MEMEME=躍動(インテンス)という感性軸の切り分けは、同じ花王のハイプレミアム帯の中で消費者の気分・自己イメージによって選ぶブランドが変わるように設計されており、3ブランド間の顧客の奪い合いをできるだけ避けながら、ハイプレミアム帯全体のパイを広げる狙いだと考えられる。もっとも、消費者はその時々の気分でブランドを切り替える傾向があるとも指摘されており、3ブランドの間で完全に客層が分離しているわけではなく、一定の重複や乗り換えは避けられないとみられる。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、この3ブランド展開が小売にとって主に効くのは客単価である。1,000円前後の主力ブランドから1,760円前後のハイプレミアム帯へ買い上げ単価を引き上げる設計であり、ヘアケア売場全体の平均客単価を底上げする効果が期待できる。次いで客数も、新ブランド発売のたびに話題化・SNS露出が起きることで、普段そのドラッグストアを利用しない層を呼び込む副次的な効果を持つ。一方で、シャンプー・トリートメントは元々消耗品でリピート購入されるカテゴリーであるため、購入頻度そのものへの影響はブランド展開よりも商品の消費ペースに規定される部分が大きく、この施策単体で購入頻度を大きく変える主眼にはなっていないと考えられる。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、3ブランド展開が主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客数 副次的効果にとどまる (新ブランド発売のたびの話題化による新規流入) 客単価 主要ドライバー (1,000円台から1,760円前後への買い上げ単価シフト) 購入頻度 施策の主眼ではない (消耗ペースに規定され、ブランド展開の影響は小さい)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

MEMEMEのパッケージは、meltの「かわいらしさ・女性らしさ」を前面に出したデザイン、THE ANSWERの「かわいらしさを抑えたソリッドなデザイン」とは異なる、より鮮やかでエネルギッシュな配色・デザインを採用しているとみられ、3ブランドを店頭で並べたときに視覚的にも明確に住み分けられるよう設計されている。

購買トリガー

「なりたい気分」で選ぶという購買文脈の中で、MEMEMEの購買トリガーは「機能性より先に、気分やキャラクター性への共感」にある。MEOVVという同世代に人気の高いタレント起用や、「PLAY! ME」というブランドステートメントが、店頭で手に取る前の段階からSNS上で購買動機を形成している。

体験設計

ブランドコンセプトの核は「髪も気分も弾む“ブーストケア体験”」であり、使用感そのものを「楽しい・弾む」という感情的な満足に結びつける体験設計になっている。ポップアップストアでの香り・使用感体験やフォトブースの設置は、購入前の体験(トライアル)と購入後にSNSに投稿したくなる体験(シェア)の両方を作り込む狙いがあったと考えられる。

図:認知・トライアル・リテンションの3段階で見たMEMEMEの購買行動の流れ(当サイト作成)
【認知】 【トライアル】 【リテンション】 MEOVV起用の Web CMで話題化 SNSで 気になる ポップアップストアで 香り・使用感を体験 購入・SNS投稿 でシェア 新シリーズで リピート ※2026年3月「スムースブーストシリーズ」投入がリテンション施策にあたる

ターゲットとなった性年代層

実際の購入者データは非公開のため推測になるが、火付け役となるコア層は10代後半〜20代前半のZ世代女性、特に推し活・自己表現に積極的なデジタルネイティブ層だと考えられる。アンバサダーに起用されたMEOVVのファン層や、表参道でのポップアップイベントに親和性の高い層がこれに該当する。一方、meltやTHE ANSWERがすでに20〜40代を中心とした幅広い年代にハイプレミアムヘアケアという購買習慣を根付かせていたことを踏まえると、拡大層としては、既存2ブランドの購買経験を通じてハイプレミアム帯そのものへの抵抗感が薄れた既存顧客が、新しい気分を求めてMEMEMEへ流入するパターンも一定数存在したとみられる。

カテゴリ視点の指標分解

カテゴリー(ヘアケア、特にハイプレミアム帯)の売上は、カテゴリ購入率×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。MEMEMEを含む3ブランド展開が最も直接的に効くのは平均単価(1,000円前後の主力帯から1,760円前後への切り替え)と、カテゴリ購入率(これまでハイプレミアム帯を試したことのなかった若年層の初回購入)だと考えられる。購入頻度や1購入あたり購入数量は、シャンプー・トリートメントという消耗品の性質上、ブランド戦略よりも日々の使用ペースに左右される部分が大きく、この施策の主眼ではない。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=3ブランド展開で特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(ヘアケア ハイプレミアム帯)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量

5. 実際の結果

花王のヘアケア事業全体で見ると、ハイプレミアム構成比は2023年頃の1%から2025年第2四半期には20%を超える水準まで拡大し、2027年度の目標も当初の27%から45%へ上方修正された。ハイプレミアム市場(1,400円以上)における花王のメーカー別シェアも2023年の32位から直近では4位まで上昇したと報じられている。先行するmeltは出荷本数250万本超・販売店内シェア3%強、THE ANSWERは出荷本数140万本超・シェア4%強という実績が確認できる一方、MEMEME単体の出荷本数やシェアの具体的な数値は本記事執筆時点の公開情報からは確認できない。ただし、2026年3月に早くも「スムースブーストシリーズ」という形でラインアップ拡充が行われている事実は、MEMEMEが単発で終わらせるべきでない、継続投資に値するブランドだと花王社内で評価されたことを示唆している。花王がヘアケア事業全体の売上高について2025年度は2023年度比26%増、2027年度は56%増という見通しを示していることからも、3ブランド体制がヘアケア事業全体の成長ドライバーとして機能していると見られる

6. 購買導線

MEMEMEはドラッグストアでの店舗販売に加え、楽天市場でも購入できる。

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「1つのブランドで市場全体を狙うのではなく、感性・客層ごとにブランドを分けて面で市場を制圧する」という手法は、化粧品・トイレタリー業界で広く見られる。資生堂は「マキアージュ」「インテグレート」「エテュセ」など、同じメイクアップカテゴリーの中で価格帯・世界観の異なる複数ブランドを展開し、それぞれ異なる客層を狙い分けている。また、飲料業界でもサントリーが「伊右衛門」「伊右衛門 特茶」のように、同じ緑茶カテゴリーの中で定番層と健康志向層を分けて商品を展開する手法をとっている。業種は異なっても、1ブランドで無理に全客層を狙うのではなく、複数ブランドに意図的に役割分担させることでカテゴリー全体のシェアを底上げする構造は共通している

事例仕掛け共通するインサイト
資生堂 マキアージュ/インテグレート/エテュセ同一メイクアップカテゴリー内で価格帯・世界観の異なる複数ブランドを展開1ブランドで全客層を狙わず、ブランドごとに客層を分けてカテゴリー全体のシェアを広げる
サントリー 伊右衛門/伊右衛門 特茶同一緑茶カテゴリー内で定番層と健康志向層を分けて展開ブランドの役割分担によって、カニバリゼーションを抑えながらカテゴリー需要を広げる

8. 法則の一般化

1つの強いブランドを育てるだけでなく、感性・客層ごとに複数ブランドを意図的に配置し、自社ブランド同士のカニバリゼーションを織り込みながらカテゴリー全体の「面」を制圧する戦略は、単品や単一ブランドのヒットでは届かない市場シェアの底上げを可能にする。ブランドポートフォリオそのものが、個々のブランドの合算を超えた戦略資産になりうる。


出典:花王株式会社 プレスリリース(PR TIMES)/花王公式ニュースルーム(kao.com/jp/newsroom)/日本経済新聞/MarkeZine/WWDJAPAN/Digiday Japan/繊研新聞 等の報道をもとに作成

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