画像出典:花王株式会社 ニュースリリース
1. フック:売れた事実
ニベア花王は2026年2月7日、クッションパフで塗り込む新しいタイプの制汗デオドラント剤「8×4MEN(エイト・フォー メン) デオドラントパテ」を発売した。美容口コミサイト(@cosme、LIPS、VOCE等)やSNSで多数のレビューが投稿され、発売から半年近く経った2026年7月時点でもYahoo!ショッピングだけで100件を超える商品リスティングが並ぶなど、継続して店頭・通販の両方で流通している。
先行して2024年11月28日に発売された女性向け「8×4 デオドラントパテ」も、5年間で1,000個以上の試作を重ねて開発され、口コミサイトで多数のレビューを集めるヒット商品となっており、今回の男性版はその実績を踏まえた展開といえる。
2. 背景と狙い
花王は開発の背景として、夏の高温化・長期化により汗のベタつきやニオイへの意識が高まり、男性デオドラント市場が大きく伸長していることを挙げている。従来の制汗剤はスプレータイプ・ロールオンタイプが主流だったが、8×4MENデオドラントパテはクッションパフで「パテ」を塗り込み、毛穴まで入り込んでピタッと密着させるという、第3の剤形を投入した。
注目すべきは展開の順序である。女性向け「8×4 デオドラントパテ」が2024年11月に先行発売され、口コミで一定の支持を確立したうえで、2026年2月に男性版が発売されている。新しい剤形という消費者にとって未知数のカテゴリーを、まず女性市場で検証してから男性市場に展開するという段階的なリスク管理がうかがえる。
3. トレードマーケティング視点の分解
流通
メーカー視点:ドラッグストア(ツルハドラッグ等)・家電量販店(ヤマダデンキ)・イトーヨーカドー・法人向け通販(たのめーる)など、既存の制汗剤と同じ販路に幅広く投入している。新剤形ではあるが、流通チャネル自体は既存の8×4ブランドのインフラをそのまま使えている。
小売視点:既存の制汗剤売場にそのまま追加できる商品であるため、小売にとっては新しい売場を作る必要がなく、季節商材の入れ替え時期に合わせて棚に加えやすかったと考えられる。
価格
メーカー視点:25gで1,480円程度(税込)と、一般的なスプレー・ロールオン型制汗剤より高めの価格帯に設定されている。
小売視点:一般に新剤形・新機能を訴求する商品は既存品より高い価格設定になりやすく、小売にとっても粗利率の観点で通常の制汗剤より有利な位置づけになっている可能性がある(実際の粗利率は非公開のため、一般的な価格帯設計からの仮説にとどまる)。
棚割り
メーカー視点:「コスメのようなかわいいパッケージ」(女性版の特徴として言及される)を踏襲しつつ男性向けにデザインを変更しており、制汗剤棚の中でも視認性の高いパッケージで差別化を図ったと考えられる。
小売視点:スプレー・ロールオンとは形状が異なるコンパクトな容器のため、陳列スペースを取らずに済み、レジ横や関連商品コーナーへの展開もしやすかったと考えられる。
季節性
メーカー視点:2月という真冬の発売は一見季節外れだが、夏本番前に売場を確保し、口コミ・レビューを蓄積してから夏の需要期に本格的な販促をかける狙いがあったと考えられる。
小売視点:制汗剤は夏に需要が集中するカテゴリーであり、小売にとっては早期発売によって夏商戦前にレビュー・評判を積み上げておける商品は、シーズン中の販売機会損失を防げるメリットがあったと考えられる。
プロモーション
認知:花王公式サイト・製品Q&Aページでの使い方訴求に加え、美容口コミサイトでのレビュー投稿を通じた自然発生的な認知拡大が中心になっている。
トライアル:女性版で確立した「クッションパフで塗り込む」という使用感の目新しさが、男性版でも同様に「試してみたい」という動機を作っていると考えられる。
リテンション:口コミでは「両脇100回分」という容量表示が紹介されており、消耗品としてのリピート購入を前提とした容量設計になっている。
カニバリゼーション
花王・ニベア花王は既存の8×4ブランドでスプレー・ロールオン型の制汗剤を多数展開している。デオドラントパテは既存のスプレー・ロールオンユーザーの一部を新剤形に置き換えている(純増ではなくシフトさせている)可能性がある。特に「白浮きしない」「無香料」といった評価は、既存のスプレー・ロールオンに不満を持っていた既存ユーザーの乗り換えを誘発しやすい訴求だと考えられる。ただし、これを裏付ける販売データは公開されておらず、あくまで推測の域を出ない。
小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度
新剤形という目新しさが客数(既存の制汗剤に満足していなかった層・新しいものを試したい層の獲得)を主に押し上げると考えられる。既存品より高い価格設定であるため、客単価への寄与も一定程度あると見られる。消耗品として繰り返し購入される性質上、購入頻度も中長期的には伸びる余地があるが、発売から日が浅く継続購買データが蓄積されていないため、現時点では客数・客単価が主要な効果と考えられる。
4. ショッパーマーケティング視点の分解
パッケージ
女性版から続く「コスメのようなかわいいパッケージ」という特徴を踏まえつつ、男性向けにトーンを変更したデザインになっている。スプレー缶やロールオン容器とは異なるコンパクトな円形容器は、制汗剤というより化粧品的な佇まいを持ち、従来の「男性用制汗剤=無骨なパッケージ」というイメージから離れた設計になっている。
購買トリガー
口コミで頻出する「白浮きしない」「パウダーのようなサラサラ感」「無香料」といった評価は、スプレー・ロールオン型の制汗剤に不満を感じていた層にとって強い購買トリガーになっていると考えられる。「毛穴まで密着」という説明も、従来品では防ぎきれなかったニオイへの不安を持つ層に刺さりやすい。
体験設計
クッションパフで塗り込むという使用体験自体が、従来のスプレー・ロールオンとは明確に異なる新規性を持つ。「朝1回塗るだけで夜までニオわせない」という時間軸の明快さと、パフで塗る際の触感の心地よさが、SNS・口コミでの言及を誘発する体験設計になっていると考えられる。
ターゲットとなった性年代層
実購入者データ(性年代別)は非公開のため断定はできないが、女性版が2024年11月の先行発売以降、美容口コミサイトを中心に評判を確立していることから、コア層(火付け役)は美容・スキンケアへの関心が高い層だったと考えられる。男性版はこの実績を踏まえた展開であるため、拡大層としては、既存のスプレー・ロールオン型制汗剤に不満を持っていた男性層、特に汗の悩みが強い夏季の高温環境で働く・過ごす層に広がったとみられる。
カテゴリ視点の指標分解
新剤形の投入初期であるため、「カテゴリ購入率」(パテタイプの制汗剤をそもそも試したことがあるか)を押し上げるフェーズにあると考えられる。既存品より高い価格設定であることから平均単価の押し上げにも寄与していると考えられる。消耗品としての性質上、購入頻度・購入者あたり購入数量は中長期的に伸びる余地があるが、発売から日が浅く継続購買データが乏しいため、現時点では判断材料が限られる。
5. 実際の結果
発売から半年近く経過した2026年7月時点でも、Yahoo!ショッピングだけで100件を超える商品リスティングが継続しており、美容口コミサイトでのレビュー投稿も継続的に増えている。一方で「かゆみを感じた」といった否定的な口コミも一定数存在し、万人向けというより、新剤形に関心を持つ層に確実に刺さった商品という位置づけと見られる。個社の売上金額は公表されておらず、規模感は店頭・通販の取り扱い状況からの推測にとどまる。
6. 購買導線
ドラッグストア・家電量販店の店頭に加え、通販でも幅広く取り扱われている。
7. 類似のインサイトから生まれた他商品
「女性向けで実績を確立してから男性版を展開する」という順序は、他の日用品カテゴリーでも見られる。スキンケア・ヘアケアブランドが女性向けラインで培った処方・使用感を、後から男性向けブランドに展開する事例は多く、新しい使用体験への懐疑心を、実績のある市場で先に解消してから次の市場に持ち込むという共通の戦略が見て取れる。
8. 法則の一般化
「新しい使用体験は、懐疑心の少ない市場で実績を作ってから、本命の市場に展開すると受け入れられやすい」——8×4MENデオドラントパテの成功は、パテという未知の剤形をいきなり男性市場に投入するのではなく、女性版で口コミの実績を積んでから展開した段階的なアプローチにある。
出典:花王株式会社 ニュースリリース、花王株式会社 ニュースリリース(女性版)、@cosme、LIPS、VOCE、モノシル


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