資生堂 HAKU(シミ対策)はなぜ売れたのか

資生堂 HAKU メラノフォーカスIV 薬用美白美容液のボトルとパッケージ コスメ
資生堂 HAKU メラノフォーカスIV 薬用美白美容液のボトルとパッケージ
出典:株式会社資生堂 プレスリリース(PR TIMES)

1. フック:売れた事実

資生堂の美白ブランド「HAKU(ハク)」から2025年2月21日に発売された10代目「HAKU メラノフォーカスIV」は、発売からわずか3週間で累計出荷本数42万本を突破した。発売から1か月ほどの2025年3月には、美的・VOCE・MAQUIAという主要美容雑誌3誌のベストコスメでブライトニング(美白)関連部門の1位を同時に獲得する「3冠」を達成している。話題はそこで終わらず、その後発表された「VOCE 2025年下半期読者ベストコスメ」でも、実際に商品を試した読者1,650人の投票によって決まる「シミ・くすみ悩み部門」で1位を獲得した。専門家・編集部による評価と、時間を置いた後の読者投票という異なる2つの物差しの両方で「1位」の評価を得続けていることが、この商品の強さを物語っている。

2. 背景と狙い

HAKUは2005年の発売以来、美白美容液市場で21年連続売上No.1(2005年1月〜2025年12月、インテージSRI/SRI+調べ)という実績を持つ、資生堂を代表するロングセラーブランドである。20年を超えるブランドは知名度こそ高いものの目新しさを打ち出しにくいという課題を抱えやすいが、美白美容液は「肌悩みに効くかどうか」がシビアに評価されるカテゴリーでもあるため、パッケージや世界観だけでなく中身(有効成分)そのものを進化させ続けなければ支持を維持できない、という構造的なプレッシャーも同時に抱えている。

資生堂はこの課題に対し、研究チームが2〜3年に1度のペースで新しい有効成分・技術を加えた後継品を投入するというサイクルを20年間続けてきた。「HAKU メラノフォーカス」シリーズは今回のIVで10代目にあたり、従来からの美白有効成分(4MSK、m-トラネキサム酸)に加えて、新たに抗炎症成分グリチルリチン酸ジカリウムを配合し、「シミ・そばかすを防ぐ」美白ケアに加えて「シミの原因になる肌あれを防ぐ」という土台作りの領域にまで踏み込んだ。単なる中身のリニューアルにとどめず「20年分の進化を1本に凝縮した」というストーリーを前面に打ち出すことで、既存ユーザーには買い替えの理由を、新規ユーザーには「今のHAKUが最も進化している」という説得材料を用意する狙いがあったと考えられる。

3. トレードマーケティング視点の分解

メーカー(資生堂)と小売(ドラッグストア・GMS・化粧品専門店等)それぞれの立場から見ると、同じ発売でも得ているメリットが異なる。

流通

メーカー視点全国約21,000店舗(ドラッグストア・GMS・化粧品専門店)という広域配荷を選んでいる。HAKUは百貨店カウンターに限定される「プレステージ」区分ではなく、幅広い店舗で自由に手に取れる「セルフ・セレクション」区分の中価格帯ブランドであり、まず店舗数(面)を最大化する設計になっている。

小売視点:20年以上売上No.1を続けるロングセラーブランドの後継品であるため、店舗側にとっては「新しく仕入れるべきか」を迷う必要がほとんどない鉄板商品である。仕入れ判断のリスクが低いまま、話題性の高い新製品を売場に加えられる。

価格

メーカー視点本体(45g)11,000円(税込)、詰め替え用10,670円(税込)と、美白美容液としては高価格帯に位置する。まず試したい人向けに20g限定サイズ(4,950円)も用意されている。世代交代のたびに有効成分は増えているが価格は据え置き〜小幅な範囲にとどめ、値上げ感よりも「進化した中身がこの価格に収まっている」という価値の底上げを前面に出す設計になっている。

小売視点1点あたりの単価が非常に高く、化粧品カテゴリの中でも客単価を大きく押し上げる主力商品になる。詰め替え用が用意されていることは、単発購入で終わらせず継続購入(リピート)を前提とした売場設計を可能にする。粗利率についても、一般に化粧品カテゴリ、とりわけブランド力のある中価格帯〜高価格帯の美容液は、日用品や食品に比べて粗利率が高く設定される傾向があり、HAKUのような客単価1万円超の主力ブランドは小売にとって金額・利益率の両面で貢献度の高い商品だった可能性が高い(実際の卸条件は非公開のため仮説にとどまる)。

棚割り

美白美容液という需要が安定したカテゴリーの中でも、20年以上売上No.1を続けてきた定番中の定番であるため、多くの店舗でHAKU専用の什器やゴンドラエンドといった目立つ売場を確保しやすい。新製品発売時には「新登場」「進化」を訴求するPOPが加わり、もともとの一等地の売場に「話題性」という更新情報を上乗せする形になる。

季節性

2月下旬という発売時期は、紫外線量が本格的に増え始める春〜夏のUV対策シーズンに入る前のタイミングにあたる。メーカー視点では、シミ予防を意識させる需要期の入口で新製品を投入することで、シーズン中の売上を最大化する狙いがあると考えられる。加えて、美容雑誌各誌のベストコスメ企画(3月号など)の発表時期とも重なっており、発売後すぐに受賞実績という「お墨付き」を獲得できるタイミングでもある。小売視点でも、UV関連商材の需要が立ち上がる時期にあわせて美白美容液を目立たせられるため、季節催事との相乗効果が見込める。

プロモーション

発売にあわせてモデルの冨永愛を起用したテレビCM・広告展開を実施した。歴代のメラノフォーカスでも木村文乃・松雪泰子・菅野美穂といった著名女優・モデルを世代ごとに起用しており、CM起用によるイメージ刷新を重ねてきたパターンの延長線上にある。

また、発売3週間で42万本出荷という実績を自らプレスリリースで公表し、その1か月後には美容雑誌3誌でのベストコスメ受賞をあらためてプレスリリースで発表するというように、「売れている/評価されている」という客観的事実を段階的にニュースリリース化している点が特徴的である。1回の発売発表で終わらせず、実績が積み上がるたびに報道・メディア掲載という形でのアーンドメディア獲得を重ねていく設計になっている。

認知・トライアル・リテンションの3段階で整理すると、冨永愛起用のCMや出荷実績・受賞歴の段階的なプレスリリース化は、幅広い層に「今のHAKUが選ばれている」ことを知らせる認知施策として機能している。トライアルにあたるのが、本体(11,000円)よりも手を出しやすい20g限定サイズ(4,950円)で、高価格帯の美容液を初めて試すハードルを下げる役割を果たしている。リテンションは、詰め替え用(10,670円)の存在と、美白美容液という効果実感まで数か月の継続使用が前提になるカテゴリ特性が組み合わさることで、一度使い始めたユーザーの継続利用を後押ししていると考えられる。

カニバリゼーション

HAKU メラノフォーカスIVの発売が、ブランド全体としての新規需要の純増なのか、旧世代(メラノフォーカスIII)からの単純な買い替えなのかは公開情報からは判別できない。HAKUは21年連続売上No.1という実績を持つロングセラーブランドであり、既存ユーザーの多くは新世代が出れば買い替える可能性が高いため、発売直後の出荷本数の伸びの相当部分は、新規獲得ではなく既存顧客の買い替え需要(世代交代)である可能性が高いと考えられる。もっとも、美容雑誌3誌での同時受賞や読者投票1位といった新たな評価が、これまでHAKUを使っていなかった層への新規訴求にもつながっている可能性があり、純粋な世代交代と新規獲得の比率がどの程度かは検証できない。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、本商品が主に貢献するのは客単価だと考えられる。1本1万円を超える価格そのものが、購入時の客単価を大きく押し上げる。詰め替え用が用意されていることで、購入頻度についても一定程度の下支えが期待できる(使い切ったら同じブランドの詰め替えを買うという導線ができている)。一方、客数への影響は限定的だと考えられる。20年来のロングセラーブランドである以上、新製品によって美白美容液市場そのものに新規の購入者を大きく呼び込むというより、既存の美白美容液ユーザーの中でのブランドスイッチやアップグレード購入が中心になっていると見るのが妥当だろう。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、本製品が主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客単価 主要ドライバー (1本1万円超という高価格帯そのものが押し上げる) 購入頻度 一定の下支え効果 (詰め替え用によるリピート購入の導線) 客数 影響は限定的 (既存美白美容液ユーザー内でのスイッチが中心)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

銀色を基調とした縦長のボトルに「HAKU」のロゴと「薬用美白美容液」の表記をあわせたデザインは、世代が変わっても大きくは崩されていない。キャップの意匠や配色を世代ごとに微調整しながらも「HAKUとひと目でわかる」一貫性を保つことで、店頭で見たときに「実績のあるあのブランドの最新版」だと伝わるようになっている

購買トリガー

「頑固なシミに先回りする」「20年分の進化を1本に」といったコピーが、これまでの実績の蓄積を購入理由に変換している。さらに店頭やECでは「〇〇誌ベストコスメ1位」「読者が選ぶベストコスメ」といった受賞バッジや表示が添えられる。初めて手に取る人にとっては「大勢に選ばれている実績のある商品」という後押しになり、継続購入者にとっては「今使っているブランドは今も評価され続けている」という安心材料になる

体験設計

美白美容液は効果実感まで一定期間の継続使用が前提になるカテゴリーで、シミ・そばかす対策は最低でも2〜3か月程度の使用が目安とされる。そのため体験設計は、青いじゃがりこのような「一度の驚きが即座に拡散する」型ではなく、「使い続けた実感を口コミサイトやSNSに投稿してもらう」型に近い。実際に@cosme等の口コミサイトやSNS上には、使用後の実感を「美容医療のような効果」といった言葉で表現する投稿が積み重なっており、この蓄積された口コミの量と評価の高さそのものが、次の購入者に対する説得材料として機能している

図:成分刷新が受賞・読者投票を経て購入・継続に至るまでの流れ(当サイト作成)
有効成分の 刷新 美容雑誌の受賞・ 読者投票1位 店頭・ECでの 受賞バッジ表示 信頼して購入・ 口コミ投稿 詰め替えで 継続購入

ターゲットとなった性年代層

実際の購入者データ(性年代別)は公表されていないため、以下は一般的な肌悩みの傾向と口コミ内容からの推測である。

シミ・そばかすは紫外線ダメージの蓄積や肌のターンオーバーの遅れによって目立ちやすくなるため、一般に40代以降で悩みとして強く意識されやすいとされる。実際、口コミサイトやレビュー記事でも40代ユーザーによる使用感の投稿が目立つ。こうした傾向から、コア層は美白美容液に相応の金額を投じる意思のある40〜50代女性である可能性が高い

一方、VOCEやMAQUIAといった美容雑誌の読者層は20〜40代とやや幅広く、「ベストコスメ1位」「読者投票1位」という切り口で取り上げられることで、シミがまだ目立ちにくい20〜30代の「将来のシミを今から予防したい」という先取り層にも情報が届いていると考えられる。つまり、コア購買層は40〜50代の実感重視層、拡大層は美容メディア経由でブランドを認知する20〜30代の予防重視層、という二層構造だった可能性がある。

カテゴリ視点の指標分解

カテゴリ(美白美容液)の売上は、カテゴリ購入率(浸透率)×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。HAKU メラノフォーカスIVの場合、最も直接的に効くのは平均単価(1本1万円超という美白美容液の中でも高い価格帯)だと考えられる。詰め替え用の存在は、購入頻度の維持にも一定の寄与があるだろう。一方、カテゴリ購入率(美白美容液を普段買わない層を新たに市場に呼び込む効果)への影響は限定的で、既存の美白美容液ユーザーの中でのアップグレード・ブランドスイッチが中心と見るのが妥当だと考えられる。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=本製品で特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(美白美容液)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量
色付きヘッダー=指標名/ドット3つ=押し上げ効果の強さの目安(赤=強い、青緑=相対的に弱い)

5. 実際の結果

発売から3週間で累計出荷本数42万本を突破したことは、資生堂自身がプレスリリースで公表した数字であり、初速の強さを裏付けている。さらに発売から1か月ほどで美的・VOCE・MAQUIAという主要美容雑誌3誌のベストコスメでブライトニング(美白)関連部門の1位を同時に獲得する「3冠」を達成し、専門家・編集部側からの評価も早期に固めた。

その後発表された「VOCE 2025年下半期読者ベストコスメ」では、美容好きの読者1,650人が実際に試した上で投票する企画の「シミ・くすみ悩み部門」で1位を獲得している。これは編集部やライターの選出ではなく読者投票による結果であり、発売直後の専門家評価だけでなく、時間が経った後の実際のユーザーからの支持も裏付けられた形になる。あわせて美的の「美容賢者が選ぶ2025年間ベストコスメ」ブライトニング美容液編では2位、CLASSYの「パフォーマンス美容ベスコス2025」くすみ対策部門では1位など、企画・評価軸によって順位に多少のばらつきはあるものの、総じて高い評価が継続している。ブランド全体では2005年3月以降、メラノフォーカスシリーズ累計で174ものベストコスメを受賞しており(資生堂調べ)、今回の「3冠」やVOCE読者投票1位は、単発の話題づくりの結果ではなく20年かけて積み上げてきた評価の蓄積がIVという最新作にも引き継がれた結果と見てよいだろう。

なお、これらはいずれもメーカー・メディア側が公表した受賞歴・出荷実績であり、実売の金額や店頭での実際の販売数量そのものは公表されていないため、断定はできない。

6. 購買導線

本商品は全国のドラッグストア・GMS・化粧品専門店で幅広く取り扱われているほか、資生堂の公式オンラインストアでも購入できる。

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「有効成分・処方の刷新を定期的に続け、その実績を美容メディアの評価という第三者の物差しに晒し続けることで権威付けを積み重ねる」という手法は、HAKUに限った話ではない。ポーラの「リンクルショット メディカル セラム」は、2016年に日本で初めてシワを改善する医薬部外品有効成分として承認された独自成分「ニールワン」を配合して2017年に発売され、その後もN、デュオ(全顔用)と改良を重ねながら、MAQUIAの読者ベストコスメのシワケア部門で殿堂入りするなど、発売から現在まで美容雑誌のベストコスメを受賞し続けている。また、SK-IIの「フェイシャルトリートメントエッセンス」は独自成分ピテラを軸とした処方の刷新頻度こそ高くないものの、@cosmeベストコスメアワード2017で殿堂入りし、口コミ件数3万件超・高評価という蓄積そのものがブランドの権威になっている。処方を刷新し続けるか、評価の蓄積によって殿堂入りするかという違いはあっても、「メディアやユーザーからの評価という第三者のお墨付きを積み重ねることが、次の購入理由になる」という構造は共通している

商品仕掛け共通するインサイト
リンクルショット メディカル セラム(ポーラ)日本初承認の有効成分「ニールワン」を軸に、N・デュオと改良を重ねながらベストコスメを受賞し続け、殿堂入りに至る成分・処方を刷新するたびに、メディアの評価という第三者のお墨付きを得て権威を更新し続ける
フェイシャル トリートメント エッセンス(SK-II)独自成分ピテラを軸にした処方を長期間維持しつつ、口コミ・受賞歴を蓄積し@cosmeで殿堂入り刷新ではなく評価の蓄積によってでも、第三者からのお墨付きの積み重ねそのものが購入の決め手になる

8. 法則の一般化

成分や処方を地道に刷新し続けても、それを自社の宣伝文句だけで語っていては説得力は限られる。美容メディアの読者投票やベストコスメアワードという第三者の評価の場に繰り返し晒し、そこで積み重ねた受賞歴・投票結果を店頭やパッケージに載せていくことで、「多くの人に選ばれ続けている」という事実そのものが動かぬ社会的証明になり、次の購入を後押しする


出典:株式会社資生堂 プレスリリース(PR TIMES)/美的/VOCE/MAQUIA/CLASSY/@cosme 等の報道・口コミ・受賞発表をもとに作成

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