きのとや「極上牛乳ソフトのクリームチーズケーキ」はなぜ売れたのか

食品

画像出典:株式会社きのとや プレスリリース(NEWSCAST)

1. フック:売れた事実

札幌の洋菓子店「きのとや」は2026年6月1日、新千歳空港内のANA FESTA千歳ロビー店ときのとやオンラインショップで「極上牛乳ソフトのクリームチーズケーキ」(2,484円)を発売した。新千歳空港で毎年開催される「ソフトクリーム総選挙」で7年連続1位を獲得している「極上牛乳ソフト」を、5層構成のケーキとして再構築した商品だ。2026年4月26日に実施された数量限定の先行販売では、開始からわずか2分で完売するという反響を呼んだ。

2. 背景と狙い

「極上牛乳ソフト」は、新千歳空港のソフトクリーム総選挙が始まって以来、毎年連続で1位を獲得し続けている看板商品である。しかしソフトクリームという商品形態には、「その場で食べるしかなく、持ち帰れない・贈れない」という構造的な制約があった。空港という土産需要の強い立地にありながら、この人気商品を土産として持ち帰ってもらう手段がなかったことになる。

きのとやは、この制約を「ケーキ」という形式に転換することで解消した。ふんわりクリーム・チーズムース・北海道産アカシアはちみつ・ベイクドチーズケーキ・アーモンド生地のタルトという5層構成で、ソフトクリームの持つ「とろける」食感を再現しながら、冷凍状態での持ち帰りを可能にしている。「7連覇」という第三者評価(空港利用客の投票)がすでに存在する商品を土台にしているため、新規に味の評価を獲得する必要がないという、非常にリスクの低い商品開発だったと言える。

3. トレードマーケティング視点の分解

流通

メーカー視点:新千歳空港内のANA FESTA千歳ロビー店という限定チャネルに加え、きのとやオンラインショップ・「HOKKAIDO SPECIAL.」サイトでの通販も並行して展開している。

小売視点空港という土産需要の強い立地とオンライン通販を組み合わせることで、現地に行けない層の需要も同時に取り込める設計になっている。

価格

メーカー視点:2,484円(税込)は、通常の洋菓子店のホールケーキとしてはやや高価格帯だが、空港みやげ・ギフトとしての位置づけを踏まえると許容される価格帯と考えられる。

小売視点「7連覇」という実績に裏付けられたブランド価値が、価格の妥当性を消費者に納得させる材料になっていると考えられる(実際の粗利率は非公開のため、一般的な空港土産の価格設計からの仮説にとどまる)。

棚割り

空港内の限られた売場スペースにおいて、「投票で証明された人気商品」という実績は、新商品にありがちな「売れるか分からないリスク」を負わずに導入できる強みになっていると考えられる。

季節性

2026年6月という夏の観光シーズン突入期の発売である。北海道観光のピークシーズンに合わせた投入タイミングであり、インバウンド需要も含めた土産需要の高まりと重なっている。

プロモーション

認知:「新千歳空港ソフトクリーム総選挙7連覇」という実績自体が、メディア(ファッションプレス・NEWSCAST等)に取り上げられる強い訴求材料になっている。トライアル:2026年4月26日の数量限定先行販売は、「2分で完売」という結果を作ることで、正式発売前に話題性を最大化する役割を果たしたと考えられる。リテンション:空港限定+オンライン通販という販売チャネルの組み合わせが、一度きりの購入で終わらせず、次回訪問時やギフト需要での再購入を狙える設計になっている。

図:購買行動の流れ(認知・トライアル・リテンションの3段階)(当サイト作成)
認知 トライアル リテンション 「7連覇」の 実績を知る 完売報道を見て 安心して購入 5層の断面を 切り分けて撮影 断面写真を SNSに投稿 次回訪問や ギフトで再購入

カニバリゼーション

「極上牛乳ソフト」というソフトクリーム自体は、ケーキ化された後も新千歳空港で引き続き販売されていると考えられ、「その場で食べるソフトクリーム」需要と「持ち帰るケーキ」需要は基本的に別の消費シーンであり、共食いは限定的と考えられる。むしろケーキが空港内でのブランド認知を高め、ソフトクリーム本体の来店動機を補強している可能性もある。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、本商品が主に狙ったのは客数(すでに証明された人気商品を目当てにした来店・購入)である。2,484円という単価はギフト・土産としては標準的な範囲であり、客単価への大幅な押し上げ効果は限定的と見られる。オンライン通販の存在は、空港に行かない層からの購入頻度・機会を補完する役割を果たしていると考えられる。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、本商品で主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客数 主要ドライバー (証明済みの人気商品を目当てにした購入) 客単価 副次的効果にとどまる (土産として標準的な価格帯) 購入頻度 副次的効果にとどまる (オンライン通販が機会を補完)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

真っ白なクリームで包まれたホールケーキのビジュアルは、ソフトクリームの「とろける」質感をそのままケーキの見た目に落とし込んでおり、一目で「あのソフトクリームがケーキになった」と分かるデザインになっている。

購買トリガー

「7連覇」というすでに証明された人気に対する信頼感が、購買トリガーとして機能している。初めて見る新商品に対する不安ではなく、「あの人気商品なら間違いない」という安心感からの購買行動が中心になっていると考えられる。

体験設計

5層構成により、一口ごとに異なる食感・風味(クリーム・チーズムース・はちみつ・ベイクドチーズケーキ・タルト)を楽しめる設計になっており、「切り分けて断面を見せる」というビジュアル自体がSNS投稿を誘発する体験になっている。

ターゲットとなった性年代層

実際の購入者データ(性年代別)は非公開のため、以下は推測である。空港利用客・北海道旅行者という母集団の性質上、コア層は北海道旅行を楽しむ幅広い年代の観光客・土産購入層だったと考えられる。拡大層としては、オンライン通販を通じて、現地に行かずとも「話題の空港スイーツ」を求める層にも広がっているとみられる。

カテゴリ視点の指標分解

カテゴリ(北海道みやげ・スイーツ)の売上は、カテゴリ購入率×購入者あたり購入金額に分解できる。本商品で特に効くと考えられるのは、カテゴリ購入率(「7連覇」の実績を目当てにした新規購入)である。2,484円という単価は既存の高級みやげスイーツと同水準であり、平均単価への大幅な押し上げ効果は限定的と考えられる。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=本商品で特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(北海道みやげ)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量

5. 実際の結果

2026年4月26日の先行販売で開始2分での完売という結果を出し、6月1日の正式発売につなげた。「新千歳空港ソフトクリーム総選挙7連覇」という実績と合わせ、複数のメディア(ファッションプレス、NEWSCAST、おとりよせネット等)で取り上げられており、話題化には成功していると見られる。具体的な販売数量・売上金額は公表されていない。

6. 購買導線

きのとやオンラインショップ・「HOKKAIDO SPECIAL.」サイトで通販購入が可能。

(近日、商品の購入リンクを追加予定)

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「すでに証明された人気商品を、持ち帰り可能な形式に転換する」という発想は、他の空港・観光地みやげでも見られるパターンだ。ドン・キホーテの「北海道クリームチーズデザート」(本サイト別記事)も、従来は冷蔵が必須だったチーズスイーツを高密封パウチで常温化し、インバウンド客の「持ち帰れない」という制約を解消した点で共通のインサイトを持つ。

商品仕掛け共通するインサイト
きのとや 極上牛乳ソフトのクリームチーズケーキその場でしか食べられないソフトクリームをケーキ化証明済みの人気商品を「持ち帰れる形」に転換する
ドン・キホーテ 北海道クリームチーズデザート冷蔵必須だったチーズスイーツを高密封パウチで常温化土産需要の制約(要冷蔵・その場消費)を技術・形式転換で解消する

8. 法則の一般化

「その場でしか味わえない」という人気商品の制約は、新しい味を開発せずとも、持ち帰れる形式に転換するだけで新たな売上機会に変えられる——きのとやの成功は、味の目新しさではなく、すでに投票で証明された人気商品を「持ち帰り可能なケーキ」という形式に落とし込んだ、リスクの低い商品開発の巧みさにある。


出典:ファッションプレスNEWSCAST(先行販売2分完売)atpress(ソフトクリーム総選挙7連覇)きのとや公式サイト/おいしいマルシェ powered by おとりよせネット 等の報道をもとに作成


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