画像出典:大正製薬株式会社 ニュースリリース
1. フック:売れた事実
大正製薬は「リポビタンファイン」と共に「リポビタンフィール」を2022年6月21日にリニューアル発売した。カフェインゼロ・糖類ゼロ・1本7kcalというドリンク剤で、Yahoo!ショッピング、楽天市場、マツキヨココカラオンライン、ヨドバシカメラ、クリエイトSDなど、主要な通販・ドラッグストアチャネルで継続して取り扱われている。リニューアルから数年が経過した現在も販売が続いており、リポビタンブランドの中で独自の位置づけを保っている。
2. 背景と狙い
大正製薬はリニューアルにあたり、「忙しい日々を乗り越えたいあなたに」というメッセージを掲げ、現代の女性の疲れに寄り添った処方への転換を打ち出した。栄養ドリンクは伝統的に「カフェインで眠気を飛ばし、気合を入れて頑張る」という男性的なイメージの強いカテゴリーだったが、リポビタンフィールはカフェインゼロにすることで、就寝前に飲んで「寝ている間に疲れを取る」という真逆の飲用シーンを提案している。
睡眠系アミノ酸のグリシンを配合し、栄養不良に伴う目覚めの悪さ・眠りの浅さの改善をサポートする設計になっており、タウリン1000mg・ビタミンB1・B2・B6という栄養ドリンクとしての基本機能も維持しながら、「翌朝のパフォーマンスのために、夜のうちに整える」という新しい価値提案をしている。
3. トレードマーケティング視点の分解
流通
メーカー視点:ドラッグストア(マツモトキヨシ、クリエイトSD等)・家電量販店(ヨドバシ)・通販(Yahoo!、楽天、大正製薬ダイレクト)と、既存のリポビタンシリーズと同じ販路に展開している。
小売視点:栄養ドリンク・医薬部外品の売場にそのまま追加できる商品であるため、小売にとっては新しい売場を作る必要がなく、既存のリポビタン売場の中でバリエーションを増やせるメリットがあったと考えられる。
価格
メーカー視点:100ml×10本で1,500円前後(税込)と、一般的な栄養ドリンクと同水準の価格帯に設定されている。
小売視点:既存のリポビタンシリーズと同価格帯であるため、小売にとっては新たな価格交渉や粗利率の見直しが不要で、既存の栄養ドリンク棚の価格体系にそのまま組み込める扱いやすさがあったと考えられる(実際の粗利率は非公開であり、一般的な価格帯設計からの仮説にとどまる)。
棚割り
メーカー視点:カシス&グレープフルーツ風味という、伝統的な栄養ドリンクの薬っぽい風味とは異なるフルーティーな味わいを訴求し、女性向けであることをパッケージからも分かりやすくしていると考えられる。
小売視点:既存のリポビタン(男性的なイメージの強い商品)と並べることで、同じ棚の中で異なる客層(女性・就寝前需要)にも訴求できる幅を持たせられたと考えられる。
季節性
メーカー視点:睡眠の質という悩みは季節を問わず存在するため、通年で安定した需要を狙える商品設計になっていると考えられる。
小売視点:季節変動の少ない商品であるため、小売にとっては年間を通じて安定した棚回転が見込める商材だったと考えられる。
プロモーション
認知:大正製薬公式サイト・プレスリリースを通じて、「忙しい日々を乗り越えたいあなたに」というメッセージで女性層への認知を図っている。
トライアル:3本入りの小容量パッケージも展開されており、まとめ買い前の試しやすさを提供している。
リテンション:10本入りの箱売りは、日常的な就寝前習慣としての継続利用を前提とした容量設計になっている。
カニバリゼーション
同時にリニューアルされた「リポビタンファイン」をはじめ、大正製薬は多数の栄養ドリンクを展開しており、リポビタンフィールはカフェインを含む従来型のリポビタンシリーズの一部需要を、就寝前に飲む層として奪っている(純増ではなくシフトさせている)可能性がある。ただし、「日中に飲むカフェイン入り」と「夜に飲むカフェインゼロ」という飲用シーンの違いから、併用されるケースも多いと考えられ、純粋なシフトというより使い分けによる需要拡大に近い可能性もある。これを裏付ける公開データはなく、あくまで推測の域を出ない。
小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度
「カフェインゼロ・就寝前」という新しい飲用シーンの提案は、客数(従来の栄養ドリンクはカフェインが気になって飲めなかった層の新規獲得)を主に押し上げると考えられる。既存のリポビタンシリーズと同価格帯であるため客単価への寄与は限定的で、就寝前の習慣として定着すれば購入頻度(10本入りのリピート購入)が伸びる余地があると見られる。
4. ショッパーマーケティング視点の分解
パッケージ
紫を基調に、星空と三日月をあしらったパッケージデザインで、「おやすみ前にも」「寝ている間に疲労回復」というコピーを大きく配置し、従来のリポビタンシリーズより明るく親しみやすいデザインで、栄養ドリンク特有の「薬っぽさ」を抑えていると考えられる。
購買トリガー
「カフェインゼロなのに疲労回復・睡眠サポートができる」という、従来の栄養ドリンクの常識(カフェインで眠気を飛ばす)とは逆の訴求が、就寝前に何か飲みたいが眠りを妨げたくないという層にとって強い購買トリガーになっていると考えられる。
体験設計
就寝前に飲んで、翌朝の目覚めの違いを実感するという体験設計は、即効性を実感しやすい従来の栄養ドリンク(飲んですぐ元気になる)とは異なり、睡眠の質という中長期的な変化を実感してもらう設計になっている。
ターゲットとなった性年代層
実購入者データ(性年代別)は非公開のため断定はできないが、「現代の女性の疲れに寄り添った処方」という大正製薬自身の説明から、コア層(火付け役)は仕事や家事で忙しく、睡眠の質に悩みを持つ20〜40代の女性だったと考えられる。カフェインを避けたい層という切り口から、拡大層としては妊娠・授乳期の女性や、カフェインに敏感な男性にも広がっている可能性がある。
カテゴリ視点の指標分解
栄養ドリンクという既存カテゴリーの中で、就寝前という新しい飲用シーンを開拓した商品であるため、「カテゴリ購入率」(カフェインゼロの栄養ドリンクをそもそも試したことがあるか)を押し上げる効果が主だと考えられる。10本入りという容量設計は購入頻度(日常的な就寝前習慣としてのリピート購入)の押し上げにも寄与していると考えられる。
5. 実際の結果
リニューアルから数年が経過した現在も、主要な通販・ドラッグストアチャネルで継続して取り扱われていることから、単発の話題で終わらず定番商品として定着していると見られる。個社の売上金額は公表されておらず、規模感は店頭・通販の取り扱い状況からの推測にとどまる。
6. 購買導線
ドラッグストア・家電量販店の店頭に加え、通販でも幅広く取り扱われている。
7. 類似のインサイトから生まれた他商品
「カテゴリの伝統的な訴求軸(カフェイン・覚醒)をあえて逆転させ、真逆のシーン(就寝前・鎮静)に転換する」という発想は、他の機能性飲料カテゴリーでも見られる。例えば、覚醒訴求が主流だったエナジードリンク市場に対する睡眠サポート系飲料の登場も、同じカテゴリーの中で真逆の飲用シーンを開拓するという共通のパターンといえる。
8. 法則の一般化
「カテゴリの伝統的な前提(覚醒・気合)を疑い、真逆のシーン(就寝前・回復)に転換すると、既存カテゴリーの中に新しい客層を作れる」——リポビタンフィールの成功は、栄養ドリンクの機能を強化したのではなく、飲むタイミングと目的そのものを反転させた点にある。
出典:大正製薬株式会社 ニュースリリース、日本経済新聞


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