サントリー「おうちドリンクバー」ペプシコーラはなぜ売れたのか

サントリー おうちドリンクバー 全5フレーバー(POPメロンソーダ、C.C.レモン、デカビタC、ペプシ、ペプシゼロ)のパッケージ 飲料
サントリー おうちドリンクバー 全5フレーバー(POPメロンソーダ、C.C.レモン、デカビタC、ペプシ、ペプシゼロ)のパッケージ
出典:サントリービバレッジ&フード株式会社 プレスリリース(PR TIMES)

1. フック:売れた事実

サントリー食品インターナショナルの「おうちドリンクバー」は、原液を炭酸水などで割って(原液1:炭酸水4が目安)自分好みの濃さやアレンジで楽しむ「原液タイプ」の飲料シリーズだ。2024年4月の発売以来、想定を上回るペースで売れ続け、2024年は計画比2倍の販売数量を記録した。2025年2月に「日本初のペプシ原液」として投入した「ペプシコーラ」がシリーズの看板商品に浮上すると、日経トレンディ「2025年ヒット商品ベスト30」で「アレンジ系希釈飲料」として10位にランクインするまでになった。2026年2月には、シリーズ計で前年から約2倍の販売数量を達成したとして、全5フレーバーのパッケージがリニューアルされている。「薄めて飲む」という一世紀以上前からある飲料の形式が、SNS時代に入って「自分でアレンジする体験」として再発見され、売れ続けている。

2. 背景と狙い

希釈して飲む飲料自体は目新しい発明ではない。冷蔵庫が普及していなかった1919年、カルピスの創業者・三島海雲が「濃縮液を水で割って飲む」という形式を考案して以来、100年以上にわたって日本の飲料棚に存在し続けてきたカテゴリーである。サントリーが「おうちドリンクバー」で目をつけたのは、この古くからある形式そのものではなく、「カラオケボックスやファミリーレストランのドリンクバーで、自分の好きな飲み物同士を混ぜる楽しさ」という別の記憶だった。

開発の道のりは平坦ではなかったという。発売前のリサーチでは「完成品を買った方が早い」「自分で割るのは面倒」といった否定的な意見が多く寄せられていた。転機になったのは、その「面倒」を弱点ではなく、手巻き寿司やたこ焼きパーティーのような「みんなで作る過程そのものを楽しむ」体験価値として捉え直したことだ。効率や時短が評価されやすい飲料市場において、あえて一手間を売り物にする逆張りの企画である。

背景には、1.5Lなど大容量ペットボトル飲料の販売が伸び悩む一方、家庭用炭酸水メーカーの普及や巣ごもり需要を経て「家で自分好みの一杯を作る」という行為へのハードルが下がっていた市場環境もある。C.C.レモンやデカビタCといった定番ブランドの「原液」という普段は流通しない形態を商品化したことで、「知っている味を、知らない形で売る」という新規性も生み出した。

3. トレードマーケティング視点の分解

メーカー(サントリー食品インターナショナル)と小売それぞれの立場から見ると、同じ施策でも得ているメリットが異なる。

流通

メーカー視点:ローソン限定だった青いじゃがりことは対照的に、「おうちドリンクバー」は発売当初から全国のスーパーやドラッグストア、ECサイトへ並行して展開する量販店中心のチャネル戦略を取っている。特定チェーンとの独占契約で話題性を演出するのではなく、日常の買い物動線に定番品として組み込ませることを狙った配荷である。

小売視点:通常の500mlペットボトル飲料とは棚のジャンルが異なる「原液・希釈用飲料」という新しい売り場区分を提案できる商品である。かさばる大容量ペットボトルに比べて陳列に必要な棚スペースが小さく済む一方で単価は高く、限られた棚面積あたりの売上効率を高めやすい

価格

メーカー視点:希望小売価格は発売時の308円(税別、2024年4月)から、ペプシコーラ投入時の328円(税別、2025年2月)、2026年2月のパッケージリニューアル時には348円(税別)へと段階的に引き上げられてきた。一方で1本(340ml)が約10杯分に相当するとパッケージ自体に明記されており、単純計算では1杯あたり35円程度になる。本体価格は通常のペットボトル飲料より高く見えても、実際に飲む量あたりのコストは割安という「ロジカル消費」的な価値訴求が同時に成立している

小売視点:本体単価が通常の飲料より高いため、レジ通過時の客単価に直接貢献しやすい商品である。さらに割り材となる炭酸水や牛乳、アレンジ用のアイスなどの関連購買を誘発しやすく、飲料単品にとどまらない売上への波及効果が期待できる。粗利率についても、340mlという少量で単価が高い「原液タイプ」は、かさばる大容量ペットボトルに比べて陳列スペースあたりの売上効率が良いだけでなく、一般に希少性・新規性のある商品ほど値引き競争にさらされにくく粗利率を確保しやすい傾向があるため、小売にとっては定番飲料よりも粗利面で有利な商品だった可能性がある(仕入条件は非公開のため仮説にとどまる)。

棚割り

定番の500mlペットボトルや缶が並ぶ飲料棚の中では、340mlの縦長ボトルは一見地味な存在になりかねない。それを補うのが「原液タイプ」「自分好みに割ろう!」「約10杯分」というパッケージ上の訴求で、手に取った瞬間に「薄めて何杯も作れる」という価値をボトル自体が説明する仕様になっている。2026年2月のリニューアルでロゴを上部に配置し、注ぐ・混ざるシズル感を中央に大きく見せるデザインへ改めたのも、棚の中での説明力を高める狙いと考えられる。

季節性

2024年4月の初弾投入以降、9月にデカビタC、2025年2月にペプシコーラ、7月にペプシゼロ、12月にすみっコぐらしとのコラボと、ほぼ四半期おきに新フレーバーや企画を継続的に投入している。中でも2025年12月のすみっコぐらしコラボ商品は、全4フレーバーとオリジナルグッズをセットにした構成で、年末年始の家族の集まりやパーティーシーズンを明確に意識した季節企画である。単発の限定商品で終わらせず、年間を通じて話題を絶やさない投入サイクルを作っている点が特徴だ。

プロモーション

公式Instagramアカウントでアレンジレシピを継続的に発信し、ユーザーがそれに応える形で自己流のアレンジを投稿する循環を作っている。「すみっコぐらし」など人気キャラクターとのコラボレーションも、親子層への訴求と話題化の両方を狙ったデジタル・店頭双方の施策と考えられる。開発担当者自身がメディア取材に応じ、「原液」という言葉をあえて前面に出した狙いや、ユーザー発祥とされる「追いペプシ」という飲み方を今後の発信ネタに取り込む考えを語るなど、企業側がSNS上の反応を拾い上げて次の施策に還元する姿勢もうかがえる。

これらを認知・トライアル・リテンションの3段階で整理すると、公式Instagramでのレシピ発信やキャラクターコラボは幅広い層に商品を知らせる認知施策の役割が大きい。トライアルを直接後押しする値引き・サンプリング施策は公開情報からは確認できないが、「日本初のペプシ原液」という一度は試してみたくなる打ち出し方自体が、初回購入のハードルを下げるトライアル訴求として機能していると考えられる。リテンションにあたるのが、5種類のフレーバー展開とほぼ四半期おきの新商品投入で、一つのフレーバーを飲み終えた後も「次はどれを試そうか」という形でリピート購入・ブランド内での回遊を促す設計になっている。

カニバリゼーション

原液タイプは1本(340ml)で約10杯分に相当するため、「おうちドリンクバー」の購入が、同じC.C.レモンやペプシの通常のペットボトル製品の購入頻度を代替している可能性がある。特に家庭で日常的にペットボトル飲料を消費している世帯が原液タイプに切り替えた場合、同一ブランド内での自己競合(カニバリ)が起きていると考えられる。一方で、「原液を薄めて自分好みにアレンジする」という体験そのものが購買動機になっている面もあり、通常品では代替できない需要を新たに生み出している部分もあると考えられ、共食いの度合いがどの程度かは公開情報からは検証できない。

小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度

売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、この商品が主に効くのは客単価と購入頻度だと考えられる。客単価には、通常品より高い本体価格に加え、割り材やアレンジ用のアイスなどの関連購買が上乗せされる。購入頻度には、1本で10杯分作れるため単純な飲み切りサイクルは長くなる一方、5種類のフレーバーを揃えたラインアップと四半期おきの新商品投入が、コレクション的な複数フレーバー購入やリピート来店を誘発している可能性がある。一方、客数については、コンビニ限定商材のような「話題を聞きつけた新規客がその1品を目当てに来店する」という即効性のある効果よりも、既存のスーパー来店客に対する「ついで訴求」としての性格が強く、副次的な効果にとどまると考えられる。

図:売上ドライバー(客数×客単価×購入頻度)のうち、本商品が主に効くと考えられる要素(当サイト作成)
客数 副次的な効果にとどまる (既存のスーパー来店客への「ついで訴求」が中心) 客単価 主要ドライバー (通常品より高い本体価格+割り材等の関連購買) 購入頻度 主要ドライバー (複数フレーバーのコレクション購入・リピート)

4. ショッパーマーケティング視点の分解

パッケージ

5フレーバー共通で「原液タイプ」「自分好みに割ろう!」というコピーと、原液を注ぎグラスの中で混ざり合う瞬間を捉えたシズル写真を大胆に配置したデザインである。C.C.レモン、デカビタC、ペプシといった見慣れたロゴをそのまま使いながら、通常品とは明確に違う縦長のボトル形状にすることで、「知っているブランドなのに、見たことのない売り方」という違和感と期待感を同時に演出している。2026年2月のリニューアルでは新ロゴを上部に配置し、シズル感をより大きく見せる構成に改められた。

購買トリガー

購買のきっかけは「いつものC.C.レモンやペプシが飲みたい」という明確な渇望よりも先に、「原液を炭酸水で割るとどうなるのか」という工程そのものへの好奇心にある。特に「日本初のペプシ原液」という打ち出しは、なじみのある味に対して抱く「原液ってどんな味なんだろう」という未知の体験への興味を刺激し、ペプシコーラ投入以降にシリーズ全体の販売が一段と伸びる呼び水になったと考えられる。

体験設計

最大の特徴は、「薄める」という一手間を面倒な作業ではなくエンタメ化した点にある。家族や友人と一緒に自分好みの濃さ・組み合わせを試す過程は、手巻き寿司やたこ焼きパーティーに近い共同体験として設計されており、出来上がった一杯を写真に撮ってSNSに投稿したくなる導線が最初から組み込まれている。実際に、炭酸水以外で割る組み合わせや、シロップとしてアイスやかき氷にかける、料理の隠し味に使うといった、公式が想定した範囲を超えるアレンジがSNS上で次々と生まれ、ユーザー発祥とされる「追いペプシ」という飲み方が企業側の発信ネタとして逆輸入されるところまで循環が広がっている

図:原液を割ってアレンジする体験がSNS拡散につながるまでの流れ(当サイト作成)
原液ボトルを 購入 自分好みの比率で 割る・アレンジ 完成した一杯を SNSに投稿 新しいアレンジが さらに拡散

ターゲットとなった性年代層

実際の購入者データ(性年代別)は公表されていないため、以下はメディア露出やプロモーション企画の傾向からの推測である。

実購買のボリューム層としては、30〜40代のファミリー層が中心とみられる。「すみっコぐらし」とのコラボレーション企画が親子層を明確に意識した内容であること、女性ライフスタイル誌「Domani」がホームパーティー向けのアレンジ提案として取り上げていることから、家庭で複数人が一緒に楽しむシーンでの購入が主要な用途になっていると考えられる。

一方、SNS上で自己流のアレンジレシピを投稿し、話題を加速させてきたのは20代を中心とした若年層とみられる。日経クロストレンドはこの現象を一貫して「若者」「Z世代のSNS価値観」という切り口で分析しており、フォロワー数や「いいね」の数よりも身近な友人から「センスがいい」と思われることを重視する価値観が、独自レシピを競うように投稿する行動につながっていると指摘している。

つまり、実際に「箱買いして家庭で消費する」コア購買層は30〜40代ファミリー、「アレンジを投稿して話題を作る」発信層は20代の若年層という、購入と発信の担い手が世代的に分かれている二層構造だった可能性がある。ひとつのブランドが親子層向けの企画と若年層向けのSNS施策を同時に走らせている点は、青いじゃがりこのような単一コア層型のヒットとは異なる特徴といえる。

カテゴリ視点の指標分解

カテゴリ(清涼飲料)の売上は、カテゴリ購入率(浸透率)×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。「おうちドリンクバー」の場合、まず効いているのは平均単価で、通常のペットボトル飲料より高い308〜348円という価格自体がここに直接寄与する。加えて、5種類のフレーバーを揃えたラインアップとほぼ四半期ごとの新商品投入は、購入頻度(同じ消費者が別のフレーバーを買い足すリピート行動)を高める設計になっていると考えられる。話題性が清涼飲料を普段あまり積極的に選ばない層の一時的なトライアルを誘発し、カテゴリ購入率を押し上げている可能性もあるが、1本で約10杯分という設計上、1購入あたりの購入数量そのものを増やす効果は限定的である。

図:カテゴリ指標の分解ツリー。赤色=本商品で特に押し上げ効果があると考えられる指標(当サイト作成)
× × × カテゴリ(清涼飲料)の売上 カテゴリ購入率 購入者あたり購入金額 購入者あたり購入数量 平均単価 購入頻度 1購入あたり購入数量
色付きヘッダー=指標名/ドット3つ=押し上げ効果の強さの目安(赤=強い、青緑=相対的に弱い)

5. 実際の結果

2024年4月の発売から1年足らずで計画比2倍の販売数量を記録し、2025年2月に「日本初のペプシ原液」となる「ペプシコーラ」を投入すると、これがシリーズ最も売れる看板商品になった。この勢いは日経トレンディ「2025年ヒット商品ベスト30」で「アレンジ系希釈飲料」として10位に選出される結果にもつながっている。同年7月には要望に応える形で「ペプシゼロ」を期間限定発売し、12月には「すみっコぐらし」とのコラボ商品を投入するなど、単発のヒットで終わらせない企画が続いた。

2026年2月には、シリーズ計で前年(2025年)から約2倍の販売数量を達成したとして、ペプシゼロの通年化と全5フレーバーのパッケージリニューアルに踏み切っている。2024年の「計画比2倍」という初速の良さが、2025年には「前年比2倍」という形でもう一段の成長に置き換わっていることから、発売直後の一時的なバズにとどまらず、2年続けて実売が伸び続けている息の長いヒットだと評価できる。なお、金額ベースの具体的な売上高は公表されていないため、断定はできない。

6. 購買導線

「おうちドリンクバー」は全国のスーパーやドラッグストアのほか、Amazon・楽天市場などのECサイトでも購入できる商品である。

7. 類似のインサイトから生まれた他商品

「薄める・混ぜる比率を自分で決められる余地を残すことで、体験そのものを商品にする」という発想は、「おうちドリンクバー」だけのものではない。アサヒ飲料は、レモン果汁にはちみつを加えた「クラフトシロップ すきっとレモン」をはじめ、みかんや梅を使った希釈用シリーズを展開しており、炭酸水だけでなく水・紅茶・牛乳など割り方を選べる点を訴求している。また伊藤園はチチヤスと共同開発した「ヨーグルチェ」(いちごヨーグルト味/バニラヨーグルト味)を2025年3月に発売し、混ぜる牛乳の量によって「飲むヨーグルト風」から「ヨーグルト風デザート」まで仕上がりを調整できる、希釈「量」のアレンジという別角度からの商品化を行っている。「原液・希釈用」という同じ枠組みの中でも、フルーツ系の健康軸で攻めるか、乳製品のデザート軸で攻めるかにメーカーごとの個性が表れている

商品仕掛け共通するインサイト
アサヒ飲料 クラフトシロップ(すきっとレモン 他)果汁にはちみつを加えた希釈シロップ。炭酸水・水・紅茶・牛乳など割り方を自由に選べる割る対象の自由度が、味のバリエーションという体験価値を生む
伊藤園×チチヤス ヨーグルチェ(いちごヨーグルト味 他)牛乳と混ぜる分量次第で「飲むヨーグルト」から「ヨーグルト風デザート」まで仕上がりが変わる希釈の「量」そのものをアレンジの自由度として商品化する

8. 法則の一般化

「完成した一杯」ではなく「自分で仕上げる工程」ごと商品として売ることで、割合や組み合わせに正解のない体験そのものが、購入後もSNSでシェアしたくなるコンテンツになる。手間を面倒ではなく楽しさに変えられれば、定番ブランドの原液化のような「見慣れた中身の新しい売り方」だけでも、長期間にわたって売れ続けるヒットを作れる。


出典:サントリービバレッジ&フード株式会社 プレスリリース(PR TIMES)/日経トレンディ/日経クロストレンド/Domani 等の報道をもとに作成

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