
1. フック:売れた事実
2025年10月、コカ・コーラ ボトラーズジャパンやサントリー食品インターナショナル、アサヒ飲料、キリンビバレッジ、伊藤園など飲料大手各社が相次いで価格改定に踏み切り、500mlペットボトル飲料の店頭価格は税別180円前後から200円前後へと上昇した。2026年3月には緑茶製品などで追加の値上げも行われている。「毎日ペットボトルを買う」という当たり前の習慣のコストが、目に見える形で重くなったタイミングである。
そんな中、水や好きな飲み物を自宅で炭酸化できる「ドリンクメイト」と「ソーダストリーム」という2つの炭酸水メーカーブランドが、家電量販店の売り場やオンラインの人気ランキングで存在感を強めている。2016年12月に日本に上陸した「ドリンクメイト」は、2024年4月時点で累計約100万台だった販売台数を、2026年3月には約140万台まで伸ばした。一方の「ソーダストリーム」は世界的に2020年、前年比45%増の売上を記録した実績を持ち、現在は日本国内だけで約1万1千店舗に配荷される定番ブランドになっている。価格.comの「炭酸水メーカー」人気売れ筋ランキング(2026年7月時点)では、1位にドリンクメイトの新製品「drinkcube」、2位にソーダストリームの「TERRA」、3位にドリンクメイトの「Series650」が並び、この2ブランドが事実上カテゴリそのものを牽引している状態だ。
2. 背景と狙い
炭酸水を飲む習慣自体は、この10年ほどで大きく広がってきた。無糖の炭酸水(ペットボトル飲料)の市場規模は直近10年で約8倍に拡大し、烏龍茶のシェアを追い抜くほどの成長を遂げたとされる。炭酸水メーカーは、この「炭酸水を飲む習慣」がすでに一定数の家庭に根づいたところに、2025年10月の飲料一斉値上げという追い風が重なったタイミングで、存在感を増したと考えられる。
ソーダストリームは1903年創業、120年以上の歴史を持つ炭酸水メーカーの草分けで、2011年10月に代理店を通じて日本での販売を開始し、2014年に日本法人を設立した。親会社はペプシコで、2040年のカーボンニュートラルを掲げる同社の方針とも連動し、「脱プラスチック」を成長の軸に据えてきた。ガスシリンダー1本でペットボトル約120本分の炭酸水を作れるという打ち出し方は、環境配慮とコスト削減を同時に訴求できる設計になっている。
一方のドリンクメイトは、米国のI-Drink Products社が開発し、2016年12月に日本市場に参入した後発ブランドである。すでにソーダストリームが確立していた「水を炭酸にする家電」という市場に対し、インフューザー(炭酸注入部分)を着脱・丸洗いできる構造にすることで、水以外のジュースやワイン、ハイボールなども直接炭酸化できるという世界初をうたう機能差別化で切り込んだ。価格だけでなく「できることの幅」で対抗した、後発ブランドらしい戦略といえる。

3. トレードマーケティング視点の分解
老舗のソーダストリームと後発のドリンクメイト、それぞれのメーカー視点と、両ブランドを店頭に並べる小売視点を分けて見ていく。
流通
メーカー視点:ソーダストリームはビックカメラ・ヨドバシカメラといった家電量販店やコストコ、イオンなどを中心に日本国内約1万1千店舗に配荷し、世界では45カ国・約8万店舗で展開する。ドリンクメイトも家電量販店を押さえつつ、カインズ・コーナン・DCMといったホームセンターにも積極的に展開しており、キッチン雑貨売り場という別の棚も取りにいくことで、後発ながら販売網の裾野を広げている。
小売視点:炭酸水メーカーは本体を売って終わりではなく、ガスシリンダーや専用ボトルという消耗品を継続的に販売できる商材である。小売にとっては一度の来店で終わらない再来店動機を作れる家電カテゴリであり、家電量販店・ホームセンターのどちらにとっても、消耗品需要による安定した来店頻度を見込める点に魅力がある。
価格
メーカー視点:ソーダストリームは「500mlあたり約20円」という一貫したシンプルな数字を前面に出し、キャンペーン告知でも繰り返し使っている。本体価格帯は1万円台から、最上位モデル「ensō(エンソウ)」で3万円台までと幅がある。ドリンクメイトはエントリーモデル「Series580」を9,900円という1万円を切る価格に設定して間口を広げる一方、充電式電動の「Series660」(23,900円)や、浄水・冷水・熱湯・炭酸水を1台に集約した新製品「drinkcube」(58,800円)のような上位モデルで客単価を積み増す設計になっている。同じカテゴリの中でも、ソーダストリームは「わかりやすい1本あたりの単価」、ドリンクメイトは「価格帯の広さとできることの多さ」で勝負するという違いが見て取れる。
小売視点:本体価格帯が1万円弱から6万円近くまで分散しているため、来店客の予算に応じた提案がしやすい。ペットボトル飲料の値上げという背景があることで「初期費用はかかるが長期的には安くなる」という訴求が刺さりやすくなっており、通常のキッチン家電よりも値上げ局面に強い商材になっていると考えられる。粗利率については、本体(耐久財)と消耗品(ガスシリンダー・専用ボトル)とで構造が異なると考えられる。一般に家電量販店にとって本体は価格競争が働きやすく粗利率が薄くなりがちな一方、消耗品は比較対象が少なく価格競争が働きにくいため粗利率が高くなりやすい。炭酸水メーカーが小売にとって魅力的なのは、本体販売そのものよりも、その後継続的に発生する消耗品販売の利益率にあると考えられる(両社とも卸条件は非公開のため仮説にとどまる)。
棚割り
家電量販店の飲料・キッチン家電コーナーでは、ソーダストリームとドリンクメイトが並べて陳列され、価格.comやレビューサイトでも「ソーダストリームとドリンクメイトのどちらがいいか」という比較企画が定番化している。競合2ブランドが同じ棚で比較検討される状態は、単体ブランドの販促よりも「炭酸水メーカーというカテゴリ全体」への注目を高める効果があり、結果として棚全体の売り場が広がりやすい状況を作っていると考えられる。
季節性
ソーダストリームは2026年も夏にキャッシュバックキャンペーンを実施しており(2026年9月23日まで)、ドリンクメイトが2024年に大型CMを開始したのも6月だった。両ブランドとも、冷たい飲み物への需要が高まる初夏から夏にかけてプロモーションを重点的に投下しており、季節要因を意識した投入タイミングを取っていると考えられる。
プロモーション
ソーダストリームは女優の上戸彩を2020年から継続的にブランドアンバサダーとして起用しており、2025年3月からは「食事の前に炭酸水を飲んで食べ過ぎを防ぐ」という健康習慣を提案する内容にシフトしている。長期にわたる同一タレントの起用により、ブランドイメージの一貫性と信頼感を積み上げる王道の広告戦略といえる。
ドリンクメイトは2024年5月から、お笑いコンビ「さらば青春の光」を起用したテレビCMを展開している。「ハイボール篇」「ジュース篇」「コスパ篇」「簡単篇」の4パターンを用意し、水以外の飲み物を炭酸化できるという機能面の差別化と、コストパフォーマンスの良さを、コミカルな文脈でわかりやすく伝える設計になっている。2026年3月には「ハイボール専用ボトル」も投入しており、家飲み・ハイボール需要への訴求を継続的に強めている。
両ブランドのプロモーションを認知・トライアル・リテンションの3段階で整理すると、テレビCMやタレント起用(上戸彩、さらば青春の光)はいずれも幅広い層にブランドを知らせる認知施策にあたる。トライアルについては、1万円を切るエントリーモデル(ドリンクメイト「Series580」)や、家電量販店店頭での実機デモ・試飲コーナーが間口を広げる役割を果たしていると考えられるが、店頭施策の詳細までは公開情報から確認できない。リテンションにあたるのが、ガスシリンダー・専用ボトルという消耗品の継続購入と、ドリンクメイトの「ハイボール専用ボトル」のような周辺アクセサリー展開であり、両ブランドとも購入後の継続利用を前提とした施策に厚みがある。
カニバリゼーション
炭酸水メーカーの普及が、既存の炭酸水・清涼飲料のペットボトル購入頻度を代替している可能性がある。「ガスシリンダー1本でペットボトル約120本分」という訴求は裏を返せば、飲料メーカーにとっては家庭内でのペットボトル消費を奪う存在にもなりうる。もっとも、これは炭酸水メーカー業界にとっての追い風であり、ここでの「カニバリ」はむしろ炭酸水メーカー2ブランド間のシェアの奪い合いとして起きていると考えられる。ドリンクメイトとソーダストリームは家電量販店の同じ棚で比較検討される関係にあり、一方の販売台数の伸びがもう一方の機会損失になっている可能性があるが、両社とも市場全体が拡大基調にあるため、純粋な奪い合いというより「カテゴリ全体の拡大の中でのシェア争い」という側面が強いとみられる。
小売にとっての狙い:客数×客単価×購入頻度
売上を客数×客単価×購入頻度に分解すると、炭酸水メーカーというカテゴリで主に効くのは客単価(1万円弱から6万円近くまでの高単価家電)と購入頻度(ガスシリンダーや専用ボトルという消耗品の継続購入によるリピート来店)の2つだと考えられる。特に購入頻度は、一度買えば数年間買い替えない通常の家電とは異なり、消耗品というストック型のビジネスモデルによって継続的な来店動機を作れる点が特徴的である。一方、客数については値上げや脱プラといった社会的な話題性が新規層の来店を後押しする副次的な効果にとどまり、両ブランドの継続的な広告投資が主に狙っているのは客単価と購入頻度の底上げだと考えられる。
4. ショッパーマーケティング視点の分解
パッケージ
食品・菓子と異なり、炭酸水メーカーは化粧箱よりも本体そのもののプロダクトデザインが購買の決め手になりやすい家電カテゴリである。ソーダストリームは黒を基調にした洗練されたミニマルなデザインで、キッチンに置いても浮かない高級感を打ち出す。ドリンクメイトは白・黒に加えてカラーバリエーションを持たせ、価格帯ごとにデザインの選択肢を広げることで、幅広い好みに対応している。
購買トリガー
値上げ後に「ペットボトルを毎回買うコストが積み重なる」という生活実感、脱プラスチックへの意識、そして家飲み・ハイボールといった晩酌シーンで「こだわりたい」という欲求の3つが、主な購買のきっかけになっていると考えられる。
体験設計
ボタン一つで目の前の水がその場で炭酸に変わる体験は、購入直後の満足度を左右する重要な要素である。ドリンクメイトは「ハイボール専用ボトル」で、飲み残しても翌日フタを開けて再度炭酸を注入すれば「復活ハイボール」として楽しめるという、体験の持続性まで踏み込んだ周辺商品を展開しており、単なる炭酸水製造にとどまらない体験設計を進めている。
ターゲットとなった性年代層
実際の購入者データ(性年代別)は非公開のため、以下は各社が起用するタレントとプロモーションの訴求内容からの推測である。
ソーダストリームは、母親世代からの支持が厚い女優・上戸彩を長年起用し、2025年からは「食べ過ぎを防ぐ」という健康・美容の切り口を前面に出している。この起用と訴求内容から、子育て世帯や健康志向の高い女性層をコア層として想定していると考えられる。
一方のドリンクメイトは、お笑いコンビを起用し「ハイボールにこだわる男」というキャラクターを立てたCMや、ハイボール専用ボトルという専用アクセサリーの展開から、家飲みを楽しむ20代後半〜40代の男性層をコア層として想定していると考えられる。ただし「ジュース篇」も同時に展開していることから、子供のいる家庭への訴求も並行して行っていると見られる。
つまり、同じ炭酸水メーカーという家電カテゴリの中でも、ソーダストリームは健康・家族軸、ドリンクメイトは晩酌・嗜好軸という異なる切り口でそれぞれ別のコア層を開拓しており、結果としてカテゴリ全体の裾野を広げる構図になっていると考えられる。
カテゴリ視点の指標分解
カテゴリ(家庭用キッチン家電)の売上は、カテゴリ購入率(浸透率)×購入者あたり購入金額に分解でき、購入者あたり購入金額はさらに購入者あたり購入数量×平均単価に、購入者あたり購入数量は購入頻度×1購入あたり購入数量に分解できる。炭酸水メーカーの場合、最も直接的に押し上げられるのはカテゴリ購入率であり、ペットボトルの値上げや脱プラ意識の高まりによって、これまで炭酸水メーカーを検討してこなかった層が新規に購入を検討するきっかけが増えたと考えられる。加えて、本体購入後もガスシリンダーや専用ボトルという消耗品を継続的に購入する構造があるため、購入頻度も中長期的な売上の押し上げに寄与する。一方、1購入あたりの購入数量(一度に何個買うか)は本体という耐久財の性質上、通常は1台にとどまるため、このカテゴリではあまり意味を持たない指標だと考えられる。
5. 実際の結果
ドリンクメイトは2024年4月時点の累計約100万台から、2026年3月時点で約140万台まで販売台数を伸ばしており、2年ほどの間に40万台以上を積み増すペースで成長している。ソーダストリームも2020年に前年比45%増という実績を残しており、現在も日本国内約1万1千店舗という広範な配荷を維持している。価格.comの人気売れ筋ランキング(2026年7月時点)で上位3機種をこの2ブランドが占めている状況は、どちらか一方だけの一過性のヒットではなく、炭酸水メーカーというカテゴリ全体が拡大を続けていることを示していると見てよいだろう。
なお、2025年10月の飲料値上げ以降、具体的にどの程度の追加需要が炭酸水メーカーに流れたかを示す定量データ(値上げ前後の販売台数比較など)は両社とも公表しておらず、値上げとの因果関係を断定することはできない。あくまで、値上げという社会的背景と、両ブランドの販売台数拡大というタイミングが重なっている、という事実にとどめておく必要がある。
6. 購買導線
ドリンクメイトとソーダストリームはいずれも家電量販店やオンラインストア(Amazon・楽天市場・公式オンラインストア等)で購入できる商品である。以下はドリンクメイト公式楽天市場店のスターターセットである。
7. 類似のインサイトから生まれた他商品
「本体価格ではなく、1杯・1本あたりのランニングコストの安さを具体的な数字で見せる」という売り方は、炭酸水メーカーに限った手法ではない。ネスレの家庭用コーヒーメーカー「ネスカフェ バリスタ」は、コンビニコーヒー1杯約120円に対して1杯あたり約20円程度で作れるとされ、6分の1程度のコストという分かりやすい対比で家庭でのコーヒー習慣を提案してきた。同様に、ポット型浄水器「ブリタ」もカートリッジ1個(約1,070円)で150Lを浄水でき、1リットルあたり約4.2円という換算でペットボトルの水より安いことを訴求している。どちらも「専用の本体(耐久財)+消耗品」という組み合わせで、初期費用はかかるものの使うたびに市販品より安くなるという構造を前面に出している点が、炭酸水メーカーと共通している。
| 商品 | 仕掛け | 共通するインサイト |
|---|---|---|
| ネスカフェ バリスタ(ネスレ日本) | 本体+専用カプセルで、コンビニコーヒーの数分の1のコストを訴求 | 本体は高くても、1杯あたりのランニングコストの安さを具体的な数字で見せることが購買の決め手になる |
| ブリタ(ポット型浄水器) | カートリッジ1個で150L浄水、1リットルあたり約4.2円という換算値を提示 | 「消耗品込みの実質単価」を具体的に見せることで、初期費用の高さへの抵抗感を下げる |
8. 法則の一般化
本体価格の高さではなく、「使うたびにいくら得をするか」を具体的な金額で見せられる消耗品型の商品は、物価上昇局面でこそ強い購買動機に変わる。
出典:ソーダストリーム株式会社 プレスリリース(PR TIMES)/株式会社シナジートレーディング プレスリリース(PR TIMES)/価格.com「炭酸水メーカー」人気売れ筋ランキング/両社公式サイト・CM情報等をもとに作成


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